「こんなに楽しい気持ちで撮ってもらうことって、なかなかないです」
スタジオに大音量で流れる音楽に表情を緩ませ、リラックスした様子でカメラを見つめる。「彼は、マキシマムザホルモンが好きです」。そんなスタイリストさんからの助言を受け、同バンドの代表曲を流すと、ときおり身体を揺らしながら、さまざまなポージングで応えてくれた田中俊介さん(32)。その笑顔の柔らかさに目を奪われた。
2023年2月7日より上演される、詩人で童話作家の宮沢賢治と、妹・トシを描いた舞台『ケンジトシ』。その舞台で田中さんは、中村倫也さん演じる宮沢賢治と、黒木華さん演じるトシに関心を寄せる男の助手・ホサカを演じる。
すでに公開されたインタビュー第1弾では、『ケンジトシ』への思い、これまで演じてきた役、出会ってきた人たちとのエピソードなど、仕事のお話を中心に聞いた。今回は、“田中俊介”という人物について、さらに深掘りをしていく。
(インタビュー第1弾→田中俊介、舞台『ケンジトシ』は「難しいからこそ楽しみ」14キロの減量や先輩俳優の“高速切り替え”に驚いた過去も語る)
時の流れの早さに衝撃!小さいころは「大の人見知り。でも好奇心は旺盛だった」
「僕、最近ようやく『YouTubeショート動画』(※)を見始めました。たまたま流れてきて、面白いな〜って次から次へと見ていたら、あっという間に時間がたっちゃうんですよね。
ショート動画の楽しさに気づいたときに、“あ、やっべえ、俺おっさんだわ。この楽しさに今ごろ気づいてるよ!”って(笑)。TikTokに関してはもう、ついていけていません……。でも考えてみれば、僕ももうすぐ33歳になるんですよ。自分でも信じられないです(笑)」
(※ ’20年に導入された、60秒以内の短い動画からなるサービス。スマホでの視聴を前提とし、縦型の動画が多く投稿される。クリックの必要がなく、スクロールするだけで次の動画をスムーズに閲覧することが可能)
1月28日に33歳の誕生日を迎える田中さんは、そう言ってくしゃっと笑った。
小さいころはどんな子どもだったのか聞くと、「大の人見知りで、人前が苦手な恥ずかしがり屋だった」という意外な答えが。
「小学生のときって、国語の授業で、先生に指名されて教科書を読んだりしませんでした? それがすごく苦手で、指名されるだけで心臓がバクバクするし、声が震えてしゃべれないタイプでした。それが今では、こうして人前でお芝居をしている。子どものときの自分からすると、考えられないです。でも、昔から好奇心は旺盛だったかもしれません。きっと、人前が苦手って気持ちより、新しい世界に飛び込んでみたいという好奇心が上回ったんでしょうね(笑)。
緊張するのは、今もずっとそう。公演初日の舞台袖では毎回、怯(おび)えている自分がいます。だけど、直前までどれだけ緊張していても、いざ舞台に立ってお客さまの前で芝居をして、終えた瞬間に拍手をいただいて……。そのときの喜びって、本当に気持ちがいいんです。楽しんでいただけた、それはイコール、“お客さんと一緒になって作品をつくり上げることができた”という達成感になる。それを味わうたびに、またやりたいなって強く思うんです」
美容室でのモデルを機に芸能界へ。大物俳優の“意外なギャップ”に感激した過去も
もともと、芸能界に入る未来図は描いていなかったと明かす。きっかけは、大学1年生のときに通っていた美容室のPR動画に出演したことだった。
「”モデルやってくれない?”と誘われたので、“僕でよければやりますよ”って、すごく軽い気持ちで返事をしました。その動画はきっと、現代のネット社会には転がっていないはず……だから、もう見られません(笑)。その動画出演を機に、モデル活動をすることになって、そのまま最初の事務所に所属が決まりました」
モデル活動から始めた芸能活動を経て、現在は俳優として活躍の場を広げている。数々の現場を経験し、いろいろな人と出会う機会が多い中でも、特に印象的だった人として語るのは、
「舘ひろしさんです。初めてお会いしたのは、ドラマの本読みでした。大きなスタジオに舘さんがガチャッと扉を開けて入っていらしたのですが、かけていたサングラスをバッと取って、渋い声で“舘ひろしです”って。カッコいい……僕が小さいころから見てきた舘ひろしさん、そのまんまだ……! って、一気に引き込まれました。
でも、いざ本読みが始まると、僕が言うのも失礼なんですが、可愛らしい表情も見せられて。そういうギャップって、本当に魅力的ですよね。“なんだ、このすてきな人は……”と純粋に感動してしまったのが印象深いです」
間近で見たダンディな舘ひろしさんに感激したときの様子を、熱量たっぷりに聞かせてくれた。
「役を通して自分自身も豊かになっていけたら」。30代になって感じた変化は?
田中さん自身は、どのように歳を重ねていきたいと思っているのだろうか。
「一つひとつ、目の前のお仕事に向き合っていたら、気づけば32歳。あっという間に過ぎていくからこそ、より真剣に向き合って、自分の中の思い出としても色濃く残していきたいなと思っています。プライベートが仕事に生きることもあれば、その逆で、仕事がプライベートに生きることもあるんです。
演じた役からもらうものって、すごく大きい。役と向き合っていくたびに、“田中俊介って、どんな人間だったかな?”って自分を見つめ直しています。役を通して、僕自身も豊かになっていけたらいちばんいいですね」
そして、20代と30代での変化をこう語る。
「20代のときは、目標に向かってずっと走り続けていました。もちろん、30代になった今も走ってはいます。でも、とにかく前へ前へと走り続けていた20代と比べると、給水所を見かけたら、ちゃんと休んで水を飲めるようになりました。“しんどくなったらちょっと歩こう、そうしないと疲れちゃうな”って、そういうのが見極められるようになりましたね。
この仕事を続けていると、役を通していろんな出会いや発見、経験が積み重なります。自分自身が豊かになっていくと、もしかしたら30代のうちに結婚したりとか、人生の第2章が始まるのかな? こればかりはわからないけど、そんな自分のこれからが、今はすごく楽しみです」
【取材・文/高橋もも子、スタイリング/中川原有(CaNN)、ヘアメイク/奥山信次(b.sun)】
【PROFILE】
田中俊介(たなか・しゅんすけ) ◎1990年生まれ、愛知県出身。’17年、映画『ダブルミンツ』で初主演を飾り、その後も映画やドラマ、舞台など多岐にわたり活躍を続ける。近年の主な出演作に、【舞台】『銀河鉄道の父』『ピサロ』(’20年)、『ホームレッスン』(’22年)、【映画】『タイトル、拒絶』『ミッドナイトスワン』(’20年)、『僕と彼女とラリーと』『FUNNY BUNNY』『彼女』(’21年)、【ドラマ】『妻、小学生になる。』『鎌倉殿の13人』(’22年)など。’22年12月24日から主演映画『餓鬼が笑う』が公開中。’22年2月から、舞台『ケンジトシ』に出演予定。
【東京公演】2023/2/7〜2/28@シアタートラム
【大阪公演】2023/3/3〜3/10@サンケイホールブリーゼ
作:北村想/演出:栗山民也
出演:中村倫也、黒木華、山崎一、田中俊介ほか
※公演詳細やチケット情報は公式HPへ→https://www.siscompany.com/kenji2023/