「演出家さんのタイプによって現場の雰囲気も違うと思うんですが、三谷(幸喜)さんの現場は、笑い声や笑顔がすごく多いんです」
’22年11月7日の福岡公演から幕を開ける、三谷幸喜作・演出の舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』。総勢16名のキャスト陣が舞台上を駆けめぐる、このノンストップコメディに参加するのが秋元才加さん(34)だ。
同じく三谷幸喜が脚本を担当する、放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では巴御前を演じ、俳優としての活躍も目覚ましい。AKB48を卒業した’13年8月以降、アイドルから俳優の道へと進んだ彼女の“現在地”とは──。
三谷さんとは日ごろからラフな会話も。キャスティング理由は“色”があるから?
まもなく客席の開場時間が迫る、ある劇場の舞台袖。開幕直前だというのに座長の姿が見当たらず、外国人演出家は迷子になり、若い演出部スタッフは連絡も取れない……。そんなアクシデントが冒頭から次々と起こるハラハラドキドキなストーリーが見どころの今作で、秋元さんが演じるのは、演出部の女性・のえ。舞台上で使用する小道具のセッティングや役者の誘導を担当するなど、裏を支えるスタッフ役だ。
「実際に大道具を持つシーンもあるんですが、本当に重いんですよ。もともと筋肉はつきやすいほうなんですが、先日、共演者さんから、“才加、またちょっと筋肉ついたんじゃない?”って。公演数が多いので、腰を痛めてしまわないように気をつけようと思います(笑)。
今回はアクションが1〜2秒遅れただけでも、立ち位置やセリフがどんどんズレていってしまうほどスピード感がある作品なので、体力はもちろん、頭もすごく使いますね。稽古場では常に駆け足なので、家に帰ると、しばらくボーッとしちゃうんです(笑)」
そんな稽古を「すごく充実している時間」だと話す秋元さんによると、演出を手がける三谷さんは“稽古場で、演者とのコミュニケーションを積極的にとるタイプ”。現場の雰囲気は、いつも明るいのだそう。
「このあいだ、三谷さんから急に“秋元さんは日焼けサロンに行ってるんですか?”って言われて。“どうしてですか?”と聞いたら、“健康的な小麦肌ですね”と。“歩いて稽古場に来ているのと、散歩が好きだからですかね”って答えたんですが、そんなくだらない……いや、くだらないとか言ったら失礼ですね(笑)。そういった他愛もないコミュニケーションを三谷さんからとってくださるのが、すてきだなと感じます。
ここ2年ほど、コロナ禍でたまったストレスを自分なりに発散していたつもりではいたんですが、やっぱり、どこか鬱々とした気持ちがずっとあって。今回この舞台で、やっと解放できた! っていう感覚があるので、すごくうれしいですし、見てくださる方々にも、いっぱい笑っていただけたらと思っています」
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から間を空けずに本作に参加。三谷作品の魅力は、秋元さんの目にどのように映っているのだろうか。
「内容が面白いのはもちろんですが、“人の弱さやもろさ、移ろいやすさも含め、人間的な魅力がたくさん描かれているところ”が三谷さんの作品の魅力だと思ってます。決して単純な勧善懲悪だけではなく、過ちを犯してしまった人の目線にも立って、物語が進んでいく。グレーな部分や、人間らしい部分をしっかり描いてらっしゃるから、多くの人の心にも届くんじゃないかなって。
少し前に、三谷さんとお仕事をご一緒されている演出助手の方から、“三谷さんが秋元さんをキャスティングする理由がわかった気がします”と言われたことがありました。“三谷さんは、『色』がある俳優さんを好まれる気がする”と。私自身は、“ピュアで無色透明な素材です、何色にも染められます!”という心構えでいるつもりだったので(笑)、ちょっとビックリでした。稽古場でお芝居をしているときは、“いかに三谷さんが求めているものに近づけるか”と必死なので、あまりそういうことを考える余裕はないですけど」
中井貴一のひと言から道が開けた。大河ドラマの影響力をひしひしと実感
ドラマや映画、舞台など、さまざまな経験を積み重ねてきた秋元さんが、自身の転機となった作品として挙げたのは、海外映画『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』(’20年公開)と、5回にわたるオーディションを勝ち抜いたテレビドラマ『やすらぎの刻〜道』(’19年〜’20年、テレビ朝日系)。
「『山猫〜』でお声がけいただけたことは自信につながりましたし、『やすらぎの刻』で5回のオーディションを経て役をいただいたことも、とてもうれしくて。それと、三谷さんの作品で過去に二度、参加させていただいたミュージカル『日本の歴史』(’18〜19年・’21年)での中井貴一さんとの出会いも、自分にとってすごく大きかったように思います。今でも忘れられないのですが、中井さんが、“才加は時代劇とか向いてると思うよ”と言ってくださって」
日本人の父とフィリピン人の母を持つ秋元さんは、「自分はミックスだから、時代劇のお話は来ないだろうと諦めていた」と話す。
「中井さんとの出会いから、昨年は時代劇作品が続いたり、大河ドラマに出演させていただいたり。今まで自分で“これはできない”と思い込んでいたけれど、案外そうじゃないのかもしれない、と思えた出来事でした。朝ドラや大河ドラマを見る家庭ではなかったので、正直、そのすごさをよくわかっていなかったのですが、『鎌倉殿の13人』の出演が決まったときに、いろんな方から“すごいね”、“やったね!”と言っていただいて。見てくださっている方からのSNSのコメントもかなりの数が届くので、大河ドラマの影響力を、じわじわと感じているところです」
“調和する”ことを大切に。ある程度の柔軟さが大事だと、やっと気づけた
ひとつひとつの役と真剣に、大切に向き合ってきた秋元さん。その姿を見ている人は必ずいるということを、彼女はまさに体現しているように思う。「芝居をするうえで心がけていること」を聞くと、「まだまだ語れる立場じゃないですが……」と、少し考えながら答えてくれた。
「最近やっと気づけたんですが、“調和する”ことです。映像であれば、その画面の中に溶け込む。舞台なら、きちんと“その場にいる”ことを大切にしています。責任感が変に強い部分があったので、これまでは仕事でも何でも、“こうしなきゃいけない”とか、“こうするべきだ”と、頭でっかちになっていたんです。そうなるとお芝居も硬くなってしまって、すごく悪循環で。
『鎌倉殿の13人』の撮影時、ある監督さんから、まさにそれを指摘されたことがありました。“このシーンはこうあるべきだ、と決めつけてしまっていませんか?”と。そのときにやっと、まだ自分にはそこまでの技術もないのに、勝手に決め込みすぎていたんだなと思って、ハッとしたんです。
セッションじゃないですけど、相手とのやりとりの中で生まれたものを大切にする。自分の役割をちゃんと意識しながらも、ある程度は柔軟に対応できるようになろうと、考えを改めることができました。遅いかもしれないけど、ここ数年でやっと気づけたことです。もっと早くわかっていたら……と思いますが、これも私のペースかなと。お芝居の取り組み方や感じ方は、ここ数年ですごく変わったと実感しています」
丁寧に紡がれる言葉が、秋元さんの人柄を表しているようだった。出会いや経験を積んで、さらなる深みを増すその姿から、ますます目が離せない。インタビュー第2弾では、AKB48時代に学んだことや忘れられないエピソード、旦那さんとの関係性や今後の展望について、じっくり語っていただく。
(※第2弾は11/3の12時に公開予定です!)
【取材・文/高橋もも子、スタイリング・井阪恵(dynamic)、ヘアメイク・信沢Hitoshi】
シャツ37400円、パンツ44,000円(ともにチノ)、ネックレス38500円、イヤーカフ22,000円(ともにリューク)、リング39600円(カスカ) ※価格はすべて税込み
【PROFILE】
秋元才加(あきもと・さやか) ◎1988年7月生まれ、千葉県出身。アイドルグループ「AKB48」に所属しチームKのキャプテンを務め、2013年8月に卒業。以降、俳優として映画・ドラマ・舞台などで幅広く活躍中。主な出演作には、舞台『ローマの休日』、『ロックオペラ モーツァルト』、『にんじん』、映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』吹替、『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』、ドラマ『やすらぎの刻〜道』がある。三谷作品への出演は、舞台『国民の映画』、『日本の歴史』、映画『ギャラクシー街道』、ドラマ『黒井戸殺し』、『鎌倉殿の13人』と多数で、’22年11月から開幕する『ショウ・マスト・ゴー・オン』にも出演。
『ショウ・マスト・ゴー・オン』
作・演出:三谷幸喜
出演:鈴木京香/尾上松也/ウエンツ瑛士/シルビア·グラブ/小林隆/新納慎也/今井朋彦/藤本隆宏/小澤雄太/峯村リエ/秋元才加/井上小百合/中島亜梨沙/大野泰広/荻野清子/浅野和之
◎福岡公演:2022年11月7日〜13日@キャナルシティ劇場
◎京都公演:2022年11月17日〜20日@京都劇場
◎東京公演:2022年11月25日〜12月27日@世田谷パブリックシアター
※公演詳細やチケット情報は公式サイトへ→https://www.siscompany.com/showmust/