1998年のデビュー以来、多くの舞台や映像作品で個性的な役柄を変幻自在に演じている俳優の北村有起哉さん。
そんな北村さんが、12月16日から公開する井川広太郎監督の映画『終末の探偵』に出演する。演じた探偵役や社会問題を取り入れた作品に対する思い、また、ご自身の今後についてなどを、時にユーモラスに、時にまじめに語っていただきました。
探偵はその時代を写す鏡
──今回のオファーを聞いたときはどんなお気持ちでしたか?
探偵役は初めてだったので嬉しかったですね。探偵ものって、どの時代にも必ずあるじゃないですか。世界にもあるし、日本でも「探偵物語」のような昭和のころからの名作や印象に残る作品のイメージがある中で、探偵ってその時代を映す鏡のような職業なんだろうなって思うんです。ただ、昭和のころと同じことをやっても仕方ないので、この令和の時代に“探偵”という役で「何ができるかな」ということは考えました。
──ハードボイルドものが大好きなので、北村さんが探偵と聞いて楽しみにしていました。嫌々巻き込まれる感じや情に厚いところなど、ロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』で、フィリップ・マーロウを演じるエリオット・グールドを彷彿とさせました。(編集担当)
本当ですか? 嬉しいな。『ロング・グッドバイ』は20代のころから大好きで、最初観たときは「なんだこの映画は!?」と思いました。『終末の探偵』の新次郎を演じるにあたってまた見直したんですけど、あのだらしなくてやる気のない感じ、いいですよね。でも人をほっとけないというか。そう見えていたならよかったです。
──ハードボイルドの伝統を受け継ぎながらも、現代の社会問題にも目を向けたクライムエンターテインメント作品ですが、台本から演じた役をどう捉えましたか。
だいぶ社会性が入っている内容なんですけど、あんまりそこに意識を乗っけすぎてしまうとトゥーマッチになりますから。とはいえ、この新次郎という人は、社会から分断された落ちこぼれにも見えるけど、いろいろなことにちゃんと意識があって、世の中に対して憂鬱に感じながら生きているんです。憂鬱になるってことは、今の日本や世界とつながっているからそう感じるのだと思うんだけど、ほかのみんなとも共感できるような立ち位置で、たまたま職業が探偵さんだったという順番で役作りを考えました。結果、井川監督のイメージする「男っぽい」や「ハードボイルド」につながればいいかなと思いました。
──北村さんというと、ドラマ「美食探偵 明智五郎」や「駐在刑事」などの警察関係者か、ドラマ「ムショぼけ」や、映画『ヤクザと家族 The Family』のやくざ者という両極端な役を演じられることが多いイメージがあるのですが、双方を演じてみて、どんなところにそれぞれの面白さを感じますか?
両方やればやるほど相手の立場がわかる気がするので楽しいですね。刑事役が続いて、たまに違う作品で逆の立場になって取り調べを受ける役をやるとめちゃくちゃ面白かったりします。「今日は俺が取り調べられるのか」って(笑)。両方の醍醐味を知っているからこそ、また別の役を演じるときのヒントになったりもします。「こういう風にやっておくと、相手はこういう風に芝居が変わるんだ」ということをその場で感じられるので。まぁ、いずれにしてもちょっとクセが強いことが多いんですけどね(笑)。
──それで言うと、今回の新次郎は正義と悪、どちらの要素も持っていますよね。
たぶんみなさんにも両方あると思うんですが、彼にも正義感も、ズルくてだらしない部分もあって、ちょっと逸脱した部分もあるけど、それでも社会とちゃんとつながっている人物なんですよ。こういうアウトローな役の場合、社会のつまはじき者みたいな、落伍者のようなイメージもあるんでしょうけど、新次郎は日本や世界のことが気になってしょうがない、だから新聞もちゃんと読んでいるし、「このままじゃいけない、日本はダメになる」という人なんだと思います。
──作中で、新次郎がある若者に言った「人の役に立つとか立たないなんて、簡単に線引きするもんじゃない」というセリフが印象に残っています。北村さんはこのセリフ、シーンをどんな思いで演じられていましたか?
新次郎は急にあのシーンで若者に対して熱血教師みたいな感じで叫んでいますけど、あの言葉のニュアンスも言い方によっては伝わり方も変わってきますよね。それに、「勝ち組」とか「負け組」という言葉で人を分けるのはいかがなものかと僕も思います。ただ、彼をそういう風にさせてしまったのは、我々や上の世代の人たちの責任があると思うので、なんか申し訳ないというか、キツかったですね。
どういう伝わり方をする作品なのかは、いつも意識に引っかけている
──本作では、外国人労働者問題などにも切り込んでいます。そういった「社会性とエンターテインメント性をどう両立させるのか」というのは映画作りで難しいところかと思いますが、俳優さんとしてはどう意識されていますか?
その作品によりけりですね。例えば、夏休みにバーンと封切られるような家族向けの映画でも変わるでしょうし、ミニシアターでコツコツとやるようなプログラムもあるでしょうから、この作品がどういう風に伝わっていく映画なのかというのは、常に意識のどこかに引っかけています。
──ドラマ「半径5メートル」では、トランスジェンダー役にも挑戦されていましたね。撮影当時のブログにも「演技のやり方ひとつで大きく印象が分かれてしまうぞ、という警戒心を抱いています」と書かれていらっしゃいました。
これまでいろいろな役をやらせてもらってきましたが、トランスジェンダーの役を演じるとなったとき、今までどおりのことをやっちゃダメだと思ったんですよ。時代は先に進んでいて、今世界がどういうふうに動いているのか、ジェンダーのこともある程度知っておいたうえで、こういう選択肢もあると提示しなければならないので、僕なりにアンテナを張っておかないといけないなと思います。ただセリフを覚えて芝居してというわけにはいかない年になりましたから。
──見る人たちも多様性が出てきた分、それぞれの意識や価値観がたくさんあるからこそ、提示する作品を役者としてどう見せるか、ということなんですね。
こういう時代だからこそ、 どういうバランスやさじ加減でできるかというのは慎重にならなければいけないところです。まぁ、それも演じるほうとしては面白い要素のひとつなんですけどね。
最近始めたインスタでやってみたいことは……。
──北村さんはずっとブログを書かれていますが、先日いよいよInstagramを始められましたね!
ずっとブログをやっていた人間としては「インスタって超楽じゃん」と思っていたんですよ。「“カシャ”って一枚写真を撮って一言添えるだけなんて、ずいぶん手を抜いているなぁ、ブログでもできちゃうんじゃないの?」って思っていたんだけど、知り合いからいろいろ聞いたり知ったりするうちに、「インスタってすげぇんだな!」って思いましてね(笑)。役者として活動するにあたり、「今こういうことやっています」とか「おかげさまで無事に舞台の千秋楽を迎えました」といったツールとして、インスタもどんどん活用していきたいと思います。
──これからインスタでやってみたいことはありますか?
僕もまだ始めたばかりなので使い勝手がよくわからないんですけど、視覚的に何かおもしろいものがあればアップしていきたいと思います。今までよりももっと取りとめのない、しょうもないものとかね。
──それは期待してしまいます!
例えば、今日来る途中にこういうのがあってさ(と言って、スマホで撮影した木の幹がガードレールを巻き込んでいる写真を見せてくださる)。こういうのなんでしょ、インスタって(笑)。
──そうかもしれないです(笑)。インスタを始めたことで、身の回りのちょっとしたものにも興味がわいてきたのですね。
それに、どんな文章をつけるかもセンスが問われますよね。その人の感性が出るし、後々に残ってしまうものですから。僕もたまに昔のブログを読み返すと、「よくこんな恥ずかしいこと投稿したな」と思うこともあるんだけど、そこを差っ引いても、いろいろやり続けて積み上げてきたなりのものはあるんじゃないかなと思います。なので、これからも言葉に気をつけて、言葉を選んで言葉遊びをしていきたいです。
50代はもうちょっと若い人たちにお節介してもいいんじゃないか
──北村さんは現在、48歳。「アラフィフ」と言われる年代になって、これからどんな50代になりたいですか?
自分は若い世代に何ができるか、何か伝えられることはないかということを思うようになりました。僕はこれまでさまざまな現場で素晴らしい人たちと交わって、たくさんの人にいろいろなことを言われて今の自己が形成されて、今も芝居するのが楽しくて好きでいられている。自分だけいい思いして、それを若い人たちに還元しないのはずるいんじゃないかと思うんです。最近はそういう関係性が薄れてしまっているけど、あえて余計なお世話というか、何か自分にできることはないかなということをよく考えるようになりました。
──先輩方の経験からくるアドバイスって、ほかの何にも代えがたいものですよね。今作の現場でも、何か若い役者さんにアドバイスしたことはありましたか?
ちょっとしたヒントというか、さらに彼のイメージが広がるようなことは伝えました。今の時代、土足でというわけにはいかないし、監督とのやりとりを見つつ、そこを崩さないようにしながら言葉を選んで「こうやればもっとおもしろくなるよ」とか「こういうアプローチをしてみるとまた違うんじゃない?」とさりげなく(笑)。
そういうことが増えれば増えるほど表現も役者も豊かになると思うので、これからはもっとお節介をしてもいい年なんじゃないかと思うんです。僕は若い彼らを応援したいし、自分がつないでもらったバトンを次の世代にもつないでいきたいと思っています。
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、ヘアメイク/石邑麻由、スタイリスト/吉田幸弘)
【Profile】
●北村有起哉(きたむら・ゆきや)
1974年4月29日、東京都出身。’98年に舞台「春のめざめ」と、映画『カンゾー先生』でデビュー。以後、朝ドラ「エール」や、ドラマ「先生のおとりよせ」、映画『ヤクザと家族 The Family』など数多くの作品に出演する個性派俳優。舞台でも活躍し、2007年「CLEANSKINS/きれいな肌」では「朝日舞台芸術賞・寺山修司賞」「読売演劇大賞・優秀男優賞」を獲得。’21年のドラマ「ムショぼけ」(ABCテレビ)で連ドラ初主演を果たした。
【Information】
●映画『終末の探偵』
監督:井川広太郎
脚本:中野太、木田紀生
出演:北村有起哉、松角洋平、武イリヤ、青木柚、髙石あかり、水石亜飛夢、古山憲太郎、川瀬陽太、高川裕也/麿赤兒
公開日:2022年12月16日(金)より、シネマート新宿ほかで上映
配給:マグネタイズ
(C)2022「終末の探偵」製作委員会