「答えを教えることは君のためにならない」
こんなことを上司に言われたことありますよね。
仕事で生まれた疑問をぶつけてみても、はっきりと答えを教えてくれない。
答えを知っているけど、あえて教えてくれない上司。
僕の成長につながらなくてもいいから教えてほしい疑問の数々。
仕事でぶつかった、仕事の謎、会社の謎、社会の謎……。
自分で考えなさいって言われても、考えてわからないから聞いているのに、なぜ謎の正体を教えてくれないのか……?
大丈夫、それ懐ゲーで経験してますよ。
「謎」には強い魅力がある
今回ご紹介するのは、ファミコンに多数登場した「謎」を含むゲームタイトルたちです。
「謎」をタイトルに含めたタイトルはたくさんありました。例を挙げてみましょう。
「アトランチスの謎」
「トランスフォーマー コンボイの謎」
「ポケットザウルス 十王剣の謎」
「謎の村雨城」
「ドラゴンボール 神龍の謎」
「ロックマン2 Dr.ワイリーの謎」
「スーパーゼビウス ガンプの謎」
「謎の壁 ブロック崩し」
多い。そう、ものすごく多いのです。
どのタイトルも「謎」が入っているだけで、ものすごくときめくものがあります。
「アトランチスの謎」は、とてつもないスケールの謎を感じます。かのアトランティス大陸の謎に迫るゲームではないでしょうか?(※ゲームのタイトルは「アトランチス」が正解です)
「トランスフォーマー コンボイの謎」は、なんと主人公のコンボイに謎があったということでしょうか。
公明正大でいつも正々堂々としているあのコンボイに、人知れぬ顔があったということなのでしょうか?
「ポケットザウルス 十王剣の謎」は、かわいい文具由来のゲームですが、かわいい文具恐竜に「十王剣」や「謎」といった、なんとも物騒なタイトルがつけられています。一体何が起こったというのでしょうか?
とにかく「謎」には強い魅力があるのです。
このゲームにはすごい謎があって、クリアすれば明らかになるに違いない!
そんな野望がムクムクと沸き上がり、親に熱烈プレゼンをしてゲームを買ってもらうことに成功しました。
そして謎解明に向かってゲームスタート!
今回は3タイトルのゲーム体験を速足で振り返ってみましょう。
「アトランチスの謎」
スーパーマリオと同型の横スクロールアクションゲームです。
ステージはなんと100面もあり、ステージ間をワープで行き来して最終ステージを目指します。
プレイヤーに与えられる情報が少なく、何をやっていいのかわからない状況も多発しますが、ステージ数が大きくなっていくことで謎に迫っている期待感が膨らむゲームでした。
ステージをワープで飛ばし飛ばしに進めて、最終ステージらしき場面でさらわれているような人を助けることに成功すると、ステージ1に戻ります。クリアしたかどうかもわからない結末なのです。
なお、ステージ1に戻ったあとにも、謎らしきものの存在やその解明については全くわかりません。
謎を見過ごしたのかどうかさえ、わからないのです。
「トランスフォーマー コンボイの謎」
80年代にブームとなった変形ロボット玩具、トランスフォーマーのアクションゲーム。
タイトルにあるコンボイはトランスフォーマーの主人公ですが、本作の主人公は別のロボットでした。
このゲームは後世に語り継がれる高難易度のゲームで、少年時代の僕にゲームは甘くなんだぞ、という強烈な教訓を与えてくれた作品でした。
高難度のステージをクリアすると、ロディマスコンボイというロボットが使えるようになりますが、これもまたコンボイとは別のロボットでした。
どこいった、コンボイ? コンボイの謎の行方が謎なのです。
「ポケットザウルス 十王剣の謎」
ファンシー文具のポケットザウルスを題材にした、これまた横スクロールアクションゲーム。
ファンシー文具要素は全体の10%程度で、主人公のハシモトザウルスが時を超えていろんなステージで恐竜軍団や妖怪軍団と戦います。
画面下半分がメッセージウインドウになっていて、敵のセリフなどの文字情報が表示されるので、シチュエーションがわかりやすい仕様になっています。
各ステージの中ボスを倒すと暗号が、大ボスを倒すとタイトルにある「十王剣」らしき剣が入手できますが、この剣、ラストステージまで進んでも5本しかありません。
宿敵らしきラスボスを倒してハシモトザウルスは人間に戻るのですが、謎がなんなのか、あと5本の「十王剣」はどこにいったのか、今もわかりません。
「謎」はどこにあったのか……。
謎解明の野望をエネルギーに変えてゲームクリアをしたのに、謎の答えはもちろん、何をもって謎と言っているのかさえわからない。
謎があったのかさえわからない。
でも、プレイ前にタイトルに感じたワクワクドキドキの胸の高まりは、あなたにゲームクリアさせる、ばく大なエネルギーを与えてくれましたよね。
そうです。
「謎」は中身に意味はないのです。
「謎」は「謎」だから意味がある。
大したことがないものでも「謎」にすることで魅力が増すのです。
世阿弥も風姿花伝の中で言っています。
能の極意は「秘すれば花」であると。
謎は謎であることにこそ最大の意味があるのです。
もうわかりましたね。
あなたを悩ませる上司のこの言葉。
「答えを教えることは君のためにはならない」
答えはないのです。上司の方は大した答えなど持っていません。
アトランチスに謎はないし、コンボイも出てこないし、十王剣も5本しかないのです。
謎があるかのようにほのめかす上司には、5本だけの十王剣をたたきつけてあげましょう。
(文/野中大三)
《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」をTwitterで公開中。