「池底には30センチ程度の泥が積もっている場所があるほか、手探りではワニガメの甲羅と見分けにくい石や流木もある。水中は視界が約5センチと濁っていて、固いものに触れるたび、その正体を確認しているがワニガメではなかった。泥の中に潜んでいる可能性もあるため、両手や足で探りながら場所を移動していった。酸素ボンベの残量がなくなったので潜水探索はこれでストップ。また作戦を練り直さないといけない」
そう言って巨大ワニガメとの持久戦を示唆するのは、静岡県河津町にある国内最大の爬虫(はちゅう)類・両生類の体感型動物園「iZoo(イズー)」の白輪剛史園長(52)。
今年5月に横浜市戸塚区のアパートから逃げたペットの巨大アミメニシキヘビについて「まだ室内にいるはず」と推理をはたらかせて屋根裏にのぼると、あっという間に捕まえてみせた専門家。一般社団法人日本爬虫類両生類協会の理事長を務め、その活躍ぶりはテレビ朝日のバラエティー番組『激レアさんを連れてきた。』にも取り上げられたほどだ。
アミメニシキヘビのようにはいかない
こんどの“対戦相手”は、米国南部の沼や川などに生息し、人の指を食いちぎるほど噛みつく力が強いとされる外来種の巨大ワニガメ。
茨城県つくば市の洞峰公園内の池で9月下旬から目撃情報が相次ぎ、公園側の依頼を受けて14日午前5時半から潜水探索1時間以上を含む3度目の捕獲作戦を実行したが捕まえることはできなかった。
潜水してカメに接近するため、頭部まで覆う青色のドライスーツに約8キロのおもりを巻いて潜りやすくした。着込むときには「ドラえもんみたいでしょ」と報道陣を笑わせたが、酸素ボンベを背負い、防刃手袋やゴーグルをする重装備。手にはヘビなどを捕まえるときに使う金属棒を持ち、潜っては場所を変える地道な探索を続けた。
この朝のつくば市は気温15度とやや肌寒い中、どこに潜んでいるかわからないワニガメとの“格闘”を終えた白輪園長は悔しさを隠そうとしなかった。
「絶対に目撃ポイントのブイ(浮き)の近くにいるんだよ。ワニガメを見ている人がいるんだから。気温と水温をみながら同じことを繰り返していくしかない。やっぱり姿を確認するのが先なんだよ」(白輪園長)
前回8日の捕獲作戦以降、2日連続でワニガメが目撃されたため3度目の捕獲作戦を決断。真夜中に静岡県を出発し、夜明け前には現地入りした。池のほとりで約1時間、カメが息継ぎのため水面にあがるタイミングを待ったものの姿を見せることはなかった。
探索時間の制限もあり、潜水作戦に踏み切ったが、次回の捕獲作戦は「姿が見えたときに飛び込むつもり」(白輪園長)という。
「ガメラ」のモデルにもなったカメ
ワニガメに挑むことになったのは、来園者に危害がおよぶことを心配した公園側が地元の専門家に相談したのがきっかけ。10月3日にはヒモにくくりつけた鶏肉で釣る作戦を試みたがうまくいかず、最終的に捕獲を依頼されたのが白輪園長だった。
白輪園長は同6日と8日、エサを入れた罠(わな)を水中に仕掛けたり、スタッフが池底を長い棒などでつついて探したが捕獲には至っていなかった。
「毎日のようにワニガメを捕まえる夢を見る。夢では簡単に捕まえられるんだけど現実はそううまくいかないね」(白輪園長)
環境省のデータによると、ワニガメは生態系などに被害をおよぼすおそれのある「生態系被害防止外来種」に指定されている。
警戒心が強く最大100キロ程度まで成長することがあり、その獰猛(どうもう)さなどから特撮映画「ガメラ」のモデルにもなったほど。昨年6月以降、動物愛護法の改正によって愛玩(あいがん)目的のペットとしては新たに飼えなくなった。
白輪園長は洞峰公園のワニガメをまだ肉眼で確認できていない。
監視カメラの映像をチェックする限り、
「当初は甲羅の長さ約60センチの個体という情報だったが、そこまで成長していなさそうで40センチぐらい。尖(とが)ったくちばしも摩耗しておらず、推定15〜20歳の若い個体とみられ、あと60〜80年は生き延びる可能性がある」
と指摘。捕獲する気持ちは折れていないといい、早期捕獲の必要性を訴える。
「この池にワニガメの天敵はおらず生態系のトップに君臨する。在来種ではないため池の生態系は破壊されてしまう。ペットとして飼っていたカメを捨ててしまったのかもしれないが、カメのためにも無傷で捕まえて、ちゃんと飼ってくれるところに引き渡してあげたい」(白輪園長)
闘いは続く──。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する。ウェブ版の『週刊女性PRIME』『fumufumu news』でも記事を担当