サブスクリプションと呼ばれる楽曲の聴き放題サービスの普及や、スマートフォン、ワイヤレスイヤフォンというデバイスの進化のおかげで、私たちはこれまで以上に日常的に音楽に触れる機会が増えてきました。
そこで、ミュージシャンや俳優、タレント……いろいろな有名人の方々に、最近よく聴いているプレイリストの中身を教えてもらいました。気になるあの人のプレイリストは、どんな曲なのでしょうか。
第5回はソウル・フラワー・ユニオン(以下、ソウル・フラワー)のボーカリストであり、7月5日にソロ・アルバム『夜汽車を貫通するメロディヤ』を発売された中川敬さんです!
【中川敬のプレイリスト】
ミック・ジャガーの恋人と呼ばれた女性シンガー
──普段はどのような楽曲を聴いていますか?
「俺の場合、普段聴いている音楽ジャンルが恐ろしくバラバラで、それこそ民謡からパンクまで何でも聴くから、何をここで紹介したらいいかかなり迷うんやけど、ここはとりあえず“入門編”的に、ここ数年、俺がツアーから帰宅したときや、労働終了時の夜中とかに何となくかけたくなるアーティスト、マリアンヌ・フェイスフルで行こうかな。60年代にローリング・ストーンズのミック・ジャガーの恋人やったことで世界的に有名になってしまった歌手で。70年代以降、マリアンヌはドラッグ禍にハマってしまって、かなりヘビーな30代・40代を送ってるんやけど、ここ30年は数年に1作のペースで必ず、質の高い新作をリリースしてくれるんよね」
──どういうところが魅力なのでしょうか。
「彼女は、この20年ぐらいはアイルランドに住んでて、ウチのメンバーの伊丹英子(ソウル・フラワー・モノノケ・サミット)がパブでバッタリ会って一緒に飲んだりするような、いわば平穏な生活に復帰してるんやけど、ここ日本では特に、相変わらずミック・ジャガーの元恋人でドラッグ中毒、みたいなスキャンダラスなイメージでしか見られないようなところがあって、かなり長年ムカついています(笑)。なんか日本の場合、相変わらず男中心に見るようなところがあるでしょ? 例えば“ストーンズの付属品”みたいな。でも、レコーディング・アーティストとしては、ここ25年ぐらいに限って言うと、全然ローリング・ストーンズよりもアーティスティックな活動を続けてて、良質な作品を出し続けてる。声質はかなりガラガラの嗄声(させい。かすれ声のこと)になってるけど、素晴らしいシンガーなんよね。
あ、ここに、俺がTwitterでマリアンヌの全作をレコメンドしてるツイート・スレッドがあるので貼っておいてください」
──人間性が音楽に出ているのですね。
「彼女は1946年生まれやからもう76歳(12月で77歳になる)で、近年はコロナで重篤状態になって命すら危なかったけど、2021年にポエトリー・リーディングのアルバム『She Walks In Beauty』で復活して、歌モノのオリジナル・アルバムとしては2018年にリリースされた『Negative Capability』がまた素晴らしいのよね。そのアルバムと、2014年の『ロンドンによろしく』(2014年)が超名盤で。ここ10数年、マリアンヌの新作が出るたびに、“マリアンヌ・フェイスフルの新作、めちゃくちゃいいんよ。聴け聴け!”って周囲に触れ回るんやけど、あまり聴いている形跡がない(笑)。そういえば去年配信の『VOGUE』の記事に日本語の最新インタビューが載ってたから、読んでみてほしいな」
アルバム制作でこだわっていること
──音楽はCDやサブスクで聴かれたりしますか?
「基本、アナログ盤とCDやね。サブスクは聴かない。フィジカル至上主義者です」
──中古レコード店に行かれたりするのですか?
「時間が空いたら、阪神の試合を観てるか、子どもとキャッチボールをしてるか、中古レコード屋で掘ってます(笑)。超多忙でも、夜中、アナログ盤をネットでポチっといったり。週末に東京でライブをしたら、大阪へ帰る前にちょっとディスクユニオン(中古を扱っている老舗レコード店)に寄ったりするんやけど、最近、店内に若い人が増えたね」
──最後に、中川さんが自身のアルバム制作でこだわっている部分はありますか?
「やっぱり、当然のことながら、曲順やジャケット・デザイン含めて、CDやLP(アナログ盤)で、アルバム単位で聴くことを想定してるから、この話の流れで言うと、CDやLPを買って、じっくり舐め回すように聴いてほしい(笑)。リスナーの人にはなかなか伝わらない部分やねんけど、ほんと、毎作毎作、命削って作ってるんで(笑)、1人でも多くの人に作品を愛してほしいね。マジで、新作『夜汽車を貫通するメロディヤ』は中川敬レコーディング史上最高傑作なので、みんな聴いてね〜」
・『Negative Capability』マリアンヌ・フェイスフル
・『ロンドンによろしく』マリアンヌ・フェイスフル
(取材・文/池守りぜね、編集/小新井知子)