「あー! 若葉ちゃん、ダメ~!」と、つい声に出して叫んでしまった。
ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)の第3話が5月14日に放送。衝撃のラストのまま、次回へとお預けになった。
『彼女たちの時代』(フジテレビ系)、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)、『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)など、多くの名作を生み出してきた脚本家の岡田惠和(おかだ・よしかず)が、それぞれに事情を抱える女性・岸田サチ(清野菜名)、野田翔子(岸井ゆきの)、樋口若葉(生見愛瑠)が運命的に出会ったことで人生を変えていく様を描き出す本作。
ひとりではつらいと感じる毎日でも、3人一緒なら強くなれる、幸せになれる。きっとそう感じさせてくれるに違いないと予感させるドラマだ。
岡田氏の作品からは、ひとりひとりのキャラクターを、長年知っている大切な知り合いを描くように、優しく包み込みながら一筆一筆大切に進めているような温度感が伝わってくる。だから主人公たちの心の揺れを、私たちも自分事のように感じ、一緒になって喜んだり笑ったりできるのだ。その分、つらさもより深く感じてしまうのだけれど……。
第3話は、ひとりじゃないことによって生まれる心強さを教えてくれるとともに、岡田脚本らしい若葉の名セリフが心に残る回になった。
◇ ◇ ◇
不幸だけじゃなく、幸運も大きすぎては抱えられない
宝くじの1等に当せん! “山分け”の約束を果たすべく、ラジオ番組のバスツアーに再び参加し、翔子と若葉に再会したサチ。
買ってすらいないのに「当たったらどうしよう~」と想像してしまう“夢の高額宝くじ当せん”。でも“本当に当選したら怖い”という気持ちもよくわかる。サチと母親(和久井映見)の会話のように、「不幸への入り口だった」とのうわさ話は確かに耳にする。
3000万円の当せんは、サチにとっては大きすぎる幸運。とてもひとりで抱えられるものではなかった。そう、ひとりでは。でも彼女には「当たったら山分けしよう!」と誓い合った翔子と若葉がいた!
「バスツアーがもう一度あるって“みね”(岡山天音)が言ってたじゃない。参加して、3人で山分けすればいいんじゃない?」と、公園のパンダ(像)が教えてくれた。きっとパンダは、誰にも弱音を吐けないサチの話を常に変わらぬ態度で聞いてくれる、ただひとりの友達。
右手を挙げて、キュッと口を結んだ笑顔で迎えてくれる。何があった日でも「ヨッ! 大丈夫だよ、笑顔でね」と言ってくれているのかもしれない。
サチは、パンダを見て心を落ち着かせながら、“3人一緒なら、この大きな幸運に対する怖さも抱えられる”と、ふっと気持ちを軽くすることができた。
若葉の言葉に救われる。ハッと、考え方を変えてくれる岡田脚本
そうして翔子と若葉と再会したサチ。ここで若葉の言葉に胸を打たれた。宝くじに当せんして怖かったと、ふたりに打ち明けたサチが「どんだけ後ろ向きなんだって話だよね」と言ったとき、正直どこかで「確かに」と思ってしまった。大変申し訳ない。
私自身を含め、このドラマに強く惹(ひ)かれる人は、サチが言うように「どこかさえない部分」のある彼女たちと、何かしら似たものを抱えているのではないだろうか。だから、若葉がサチにかけた次の言葉は、サチだけでなく、“似たものを抱える私たち”にも響くものだった。
「おだいり様(サチのバスツアーで付けられたラジオネーム)は後ろ向きなわけじゃないです。現実から逃げてないですから。背を向けてないので、ちゃんと前向きです。(中略)前向きだから、進まないという選択肢もあると思うのです」。
ありがとう若葉ちゃん、ありがとう(脚本の)岡田さん。若葉の言葉は、サチに対してだけでなく、さえない私がおそらく私自身に向けていた“後ろ向き”への思い込みも、「それは前向きなんだ」と変えてくれた。
若葉からの言葉のプレゼントはさらに続く。「ないんだよね、キャラとかそういうの」と言うサチに、若葉は「いませんよ、キャラクターのない人なんて」と返す。 “後ろ向き”な性格に悩む人以上に、自分には“キャラがない”と信じ込んでいる人は、きっと多い。
生見演じる若葉からは、偽善ではなく、まっすぐに思ったことを返してくれているのが、よく伝わってくる。だから胸の奥まですっと届く。
さて、そんないちばんの年下ながら、デキた若葉が「いろいろ辛酸をなめてきた」ことをうかがわせるシーンも描かれた。
バスツアーの帰り、3人で作ったLINEグループのやりとりを見ながら嬉しくなって笑みを浮かべる若葉に、地元の住民が心ない言葉を浴びせる。「絶対男だよ、アレ」「あの女の娘だしね」。
あまりにもヒドい、あることないこと、ではない。ないことないこと、ないことないこと……。若葉はこうしてずっと傷つけられてきたのだ。直前に、若葉の言葉によって救われていることもあり、余計に、こうして言葉で傷つけられている若葉を助けてあげたくて、つらくて仕方がなかった。
しかし救うどころか、3話のラスト、“あの女(母である矢田亜希子)”が姿を見せ、若葉は1000万円が記された通帳を差し出してしまう。ここで若葉に「なぜ?」とは言えない。悪魔のような母親に支配されてきた若葉の身体が、そう反応してしまうのは仕方がないことなのだ。
支え合える友達を得ることによって、きっと「夢見ること」を見つけられる
3000万円を山分けした3人は、それぞれに幸せになることを誓って“解散”した。だが、幸せへの道は誰も歩めていない。ところで3人は、まだ友達にすらなっていない。翔子と若葉は3人組のことを「友達」と称することに抵抗はないだろうが、サチはそう口にはしないだろう。
作ったLINEグループも、あくまでも“宝くじを受け取るための連絡グループ”という名目があったから作りやすかっただけ。一度友達だと認めてしまったら、別れがつらいから、認めたくない。今ならまだ、友達じゃないから“解散”もできる。
でもこれから彼女たちは、3人だから、「友達」だから強くなれる姿を見せてくれるはず。依存ではなく、支え合って、それぞれに自立しながら進んでいく、友情の道を、きっと示してくれる。
サチは「こうならないのかなとか。夢見るみたいなことは、私はそういうのは……」と諦め、拒否してきた。でも手にしたお金うんぬんではなく、支え合える友達を得ることによって、きっと「夢見ること」、それに向き合う強さを持てるのではないだろうか。
そこには、みねや、カフェプロデューサーの住田賢太(川村壱馬)も関係してくる予感がする。恋愛としてではなく。まだまだそれぞれに大変なことが続きそうだが(翔子の背景も描かれるだろう)、彼女たちの“前向き”を見守りたい。
(文/望月ふみ、編集/本間美帆)