約50年間、東京・中野区で愛され続けている文化複合施設・中野サンプラザが再開発にともない、来年7月に閉館します。
一般的に街が再開発されると喜ぶ人が多いものですが、中野サンプラザに限っては、閉館を惜しむ声も少なくありません。それはどうしてなのか。その謎を解くため、地元の人でも知らない人が多い「中野サンプラザの中身」をご紹介します。
中野区出身&中野在住歴の長い筆者が、中野サンプラザを取材してきました。
中野サンプラザは、地上21階、地下2階の白い三角の特徴的な形をしたビルです。昭和48年(1973年)6月1日に開館して以来、さまざまなシーンで利用できる文化複合施設として、人々に愛されてきました。
同施設を運営している株式会社中野サンプラザ 執行役員の渡邊武雄さんに、館内をご案内いただきながら、その見どころをレポートします。
「アイドルの聖地」中野サンプラザホール
●2~4F:サンプラザホール
中野サンプラザの施設で全国的に有名なのは、このホールです。席数は2222席あります。「近年は、ハロプロ(ハロー!プロジェクト)など人気アイドルグループのライブや声優さんのステージが増え、“アイドルの聖地”と呼ばれるようになりました」(渡邊さん)
個人的には、“中野らしいカルチャー”を発信されているホールだと認識しています。この「2000人規模の広さ」というのがポイントで、アーティストにとって、「東京公演において“登竜門的なホール”である」と言われています。アーティストがライブハウス公演の成功を収めた先にあるのが、この規模のホールであり、さらに、5000人収容の「東京国際フォーラムホールA」、1万人規模の「日本武道館」、1万5000人規模の「横浜アリーナ」へとステップアップしていくことが多いようです。しかも、都内で“2000人規模のホール”は少ないので、貴重なのです。
とはいえ、開館当時は、“登竜門的なホール”というよりも、有名な外国人アーティストがコンサートをする、“最先端のホール”だったようです。
「開館以来、ボブ・マーリーさん、U2、ザ・ベンチャーズなどの外国人アーティストや、山下達郎さん、吉田拓郎さん、荒井由実(松任谷由実)さん、矢沢永吉さんなど、音楽シーンをリードするアーティストの方々がコンサートを開催しました」(渡邊さん)
もちろん今でも「2000人規模の空間がちょうどいい」ということで、山下達郎さんなど、あえてここでの公演を選ぶアーティストの方々もいます。それというのも、ホールは広すぎず、狭すぎず、後方の席でも見やすい会場になっているからです。
さらに「音が良い」と評判で、「音響家が選ぶ優良ホール100選」という、音楽家の観点から「使いやすいホール」を選定した100選のひとつにも選ばれています。観客にとっても、「コンサートを楽しむのに最適なホール」だといえるでしょう。
舞台のサイズは、間口(横の長さ)30.7m、奥行き12.7m、高さ16m。開館当時は、アリーナ仕様にしたり、天井の上からゴンドラに乗って出てきたりすることもできたようです(※今はできません)。
正直言うと……内装はイマドキではありません!(笑)。ロビーはこんな感じです。
でもその“昭和的”なところが、むしろ1周してエモいと感じる人もいるのではないでしょうか。最近、こういった内装は、なかなか見かけないですしね。
実はこの日は、普段、なかなか見ることのできないホールのバックヤードもご案内いただきました。特に見ごたえがあったのが、以下のスポットです。
めったに見られない、ホールの舞台裏を大公開!
◆楽屋
楽屋は全10室あり、大部屋と個室が完備されています。鏡の周りにライトがついた“女優ミラー”になっています。憧れのアーティストも、この部屋を使ったのかもしれませんよ?
◆奈落
舞台の下には、奈落のあるフロアがあります。そのフロアには、「迫り(せり)」というエレベーターのような舞台装置がドーンと設置されています。これを使って、大道具を奈落から舞台上に押し上げたり、逆に奈落に引き下ろしたりします。
舞台前の客席は移動席になっていて、その下にも迫りがあり、オーケストラが生演奏する演目のときには、その部分を客席よりも低い位置に下げ、演奏家が入るようになっています。
◆音響&照明のコントロールルーム
ステージ左右の2階に音響と照明のお部屋があり、そこでスタッフが作業をします。
◆リハーサル室
広いリハーサル室もあります。ここで出演者が練習できるようになっています。
横浜まで見渡せて眺望抜群! 20階のレストラン
●20F(最上階):レストラン
最上階には、フレンチレストラン「121ダイニング」と日本料理「なかの」があります。どちらのお店も見晴らしが最高です。
◆フレンチレストラン「121ダイニング」
「121ダイニング」のほうは、中野駅の南口側が見渡せるようになっています。新宿の高層ビルはもちろんのこと、横浜までの展望が楽しめます。
◆日本料理「なかの」
「なかの」のほうはカウンター席があり、正面に窓があり、高層の景色が眺められるようになっています。
テーブル席のほうでは、なかなか見る機会のない、ショッピングセンターと集合住宅が複合されたサブカルチャーの聖地「中野ブロードウェイ」の屋上を見ることができます(屋上は、緑化しているんですね!)
「121ダイニング」と「なかの」のランチは、ホテルや結婚式場がある施設にしては意外とリーズナブルな価格で、1500円くらいから楽しめます。
出張やライブ遠征に便利な駅近ホテル
●16~19F:ホテル
ホテルも眺望が抜群。客室は83室あります。
「洋室」は、窓から中野駅を見下ろせるお部屋も。鉄道好きの人にもオススメです。
「和室」は外が庭園風になっており、中野にいるのを忘れて旅館にいる気分が味わえます。
また、バリアフリーの「特別室」もあります。
「コンサートがあるときは、地方からお客様がいらっしゃるので、満室になることが多いです。また地方からビジネス出張の方もいらっしゃいます。新宿のホテルで泊まるよりも駅から近かったり(※中野サンプラザは駅前)、価格がリーズナブルだったりすることで、(中央線で)新宿の隣の駅の中野に来て、当ホテルをご利用されるんです」(渡邊さん)
美しいチャペルと神殿。思い出に残るウエディングに
●6F:チャペル・神殿
中野サンプラザでは、挙式もできます。ここは、自分が式を挙げるか、招待されない限り、なかなか見る機会のない場所ですよね(※私も初めて見ました)。
◆チャペル
見たときに、思わず「わぁ、きれい!」と声が出たほど、美しい空間です。2フロア吹き抜けで天井が高く開放感があり、16メートルに及ぶ大理石のバージンロードが厳かな雰囲気を醸し出しています。オプションで「ブルーライティング」にできます。パイプオルガンでの生演奏ができる本格派です。
◆神殿
こちらは洗練された和テイストで、神聖さを感じさせる空間になっています。縁結びで知られる伊邪那岐(いざなぎ)神、伊邪那美(いざなみ)神を祀り、白木をぜいたくに施しています。
「一般的なホテルで挙式を挙げるよりも、比較的リーズナブルな価格なっています」(渡邊さん)とのこと。披露宴会場も「40名までのお部屋」から「100名以上のお部屋」までそろっているので、使い勝手がよさそうです。来年の6月末まで使用できるので、結婚式場を探している方は、まだ間に合いますよ!
このほか、セミナーに使える研修室(7~8F)、レンタルオフィス(9F)のほか、ボウリング場(MB)、インターネットカフェ(MB)、イタリアンカフェ(1F)、会員制フィットネスクラブ(B1~B2F※プールがあり、8Fにはテニスコートも)、フラワーショップ(MB)、音楽スタジオ(B1F)などが入っています。
もともとはホール棟、ホテル棟、スポーツ棟を平面に配置する予定だったのを、設計した日建設計の建築家・林 昌二さん(1928年~2011年)がすべてをひとつの建物に複合させることを提案し、設計したといわれています。
当時は画期的な建物だったでしょうね。もちろん今でも、唯一無二のデザインの建物ですよね。
現在、50周年イベントを実施中!
来年50周年を迎えるため、「50周年イベント」を実施しています。
(1) 50周年記念カプセルトイ 第1弾:8/1~販売中 1回300 円(限定1万個)
カプセルトイは、「立体けしごむ」「ダイカットポーチ」「ラバーキーホルダー」「缶マグネット」の4種。「立体けしごむ」は全5色あります。早速、私もガチャガチャして、白色をGETしました!
実はカプセルトイは、発売開始してから、行列ができるほど人気のようです。特徴的な三角の形をした中野サンプラザだからこそ、けしごむやキーホルダーとして成り立つのでしょうね。
(2)記念グッズ販売(手ぬぐい)10 月から毎月色を変えて300枚限定で発売(1000円・税込み)
一度販売し、すぐに完売した手ぬぐいが10月から再販開始するそうです(※限定500枚のトートバックはすでに売り切れ)。
さらに、今後、レストランや客室で感謝企画を行うそうです。
◇ ◇ ◇
今回、館内を回ったことで思ったのは、確かに古い建物ではありますが、「きちんと手入れをされて、大切にされてきたのだな」ということです。
40代以上の人から見たら古臭く感じる内装でも、もっと若い世代の人からしてみたら、むしろ初めて見る珍しさやエモいオシャレ感を覚える可能性も秘めているかもしれません。効率化が求められがちな現代では、「三角形で容積が少なく経済合理性の低い建物」という見方もありますが、だからこそ、閉館まで存分に堪能したいものです。
第2段では、株式会社中野サンプラザ 執行役員の渡邊武雄さんにインタビューし、「中野サンプラザの歴史」「どうして中野サンプラザがこんなに愛されてきたのか」についてお話しいただき、さらに「閉館後どうなるのか」についてもご紹介します。
【第2弾記事:中野サンプラザはなぜ三角形で、なぜ中野区民に愛され続けているのか? 2023年の閉館後はどうなるのか調査】
(取材・文/加藤弓子)
〈施設情報〉
■中野サンプラザ
所在地:東京都中野区中野4-1-1
竣工:1973年6月1日
閉館日:2023年7月2日
構造:地上21階、地下2階
敷地面積:9530平方メートル
施設内容:多目的ホール・結婚式場・研修室・宴会場・レンタルオフィス・ホテル・レストラン・音楽スタジオ・フィットネススタジオ(プール・テニスコート)・ボウリング場・・インターネットカフェ・フラワーショップ・駐車場