「こいつ、敵だな……」
現代社会では残念ながら“敵”と認識せざるをえない存在に遭遇します。
どんな環境であってもWin-Winな関係を築いて、みんなが幸せになるような仕事をしたいものですが、どう考えても敵対視してくる人というものは出てくるものです。
あるときは得意先、あるときは社内の同僚、そして時には上司ですら敵と化す可能性がある現代社会。
楽しく仕事をしたい自分は、そもそも敵対関係なんて求めていない。建設的な仕事をしたいのに、今日も敵さんの処理にストレスをためる不毛な時間を過ごしてしまう。一体どうすればいいのか。
大丈夫。それ、懐ゲーで経験してますよ。
今回ご紹介する懐ゲーは、1985年にバンダイさんから発売されたファミコン用ソフト「超時空要塞マクロス」です。
80年代にテレビと劇場で人気となったSFアニメ作品を題材にした横スクロールシューティングゲームで、プレイヤーは3形態に変形する自機を操作して、異星人と戦うという内容です。
マクロスといえば美しい宇宙戦の描写が有名な作品。このファミコンソフトでも原作のよさは見事に再現されていて、舞台となる宇宙空間でははるか遠くで発生した爆発の光が見え、敵が撃ってくる弾も規則的で美しい軌道を描いてくれます。
ゲームを盛り上げてくれるBGMにはアニメで流れている挿入歌「小白竜(シャオ・パイ・ロン)が使われていて、これまた原作再現度が非常に高いのです。
アニメの雰囲気を見事に演出したキャラクターゲームの名作といっていいでしょう。
強烈な攻略法が存在
ところがこのゲーム、アニメの雰囲気にじっくり浸るのには少々難がありました。
難易度が高いのです。
1面から弾丸の雨が降り注ぎ、2面以降はとにかく弾が多くて避けるのが非常に難しい。
ライフ制なので何発か弾に当たってもゲームは進行するのですが、ボスステージにたどり着くころにはひん死状態。謎のオリジナルボスのこれまた無慈悲な弾幕攻撃に即ゲームオーバー、という展開に涙を流すプレイヤーが続出しました。
攻略すべきはとにかく弾です。
大抵の敵が弾を撃ってくるので画面は常に弾だらけ。並の動体視力では全部避けるなんてほぼ不可能。これはもうニュータイプに目覚めるしかないが、それは別作品なのでご法度か……。
しかし、このゲームには強烈な攻略法が存在したのです。
それは「安全地帯」の存在です。
画面右下に自機を潜り込ませると、厄介な弾丸をほぼ避けることができます。
うわさで知った安全地帯の存在を、ゲーム少年だった私は信じられませんでした。画面右下といったら、右スクロールのこのゲームでは相手の銃口の目の前に立つような行為です。もしも右下に敵や敵弾が出現したら避けることは絶対にできません。
とはいえ、通常プレイの攻略はほぼ不可能だろうと、バルキリーパイロット引退も脳裏に浮かんでいた私は安全地帯説を信じて右下に飛び込みました。
自機の上を敵が次々とかすめていく緊張感!
しかし当たらない! 当たらないのです!
ステージ後半で敵の数が増えると流れ弾が一発当たりましたが、致命傷にはならず、あれよあれよといううちにボスステージに到着です。潤沢なライフさえあれば、ボスの撃破などたやすいもの。これまでなめさせられた苦渋のお返しとばかりにボスを撃破して、ステージ2に進みます。
「小白竜(シャオ・パイ・ロン)」を口ずさみながら
このゲーム、ステージ2以降の構成はステージ1とほぼ同じなのです。背景も同じで出現する敵の種類も同じで攻撃パターンが異なるだけ。障害物はそもそも存在しません。
ということは──
安全地帯がステージ2以降も通用するのです。
最も危険と思える場所が、最も安全な場所であったのです。
そうです。もうわかりますね。
あなたが“敵”と遭遇し、戦いたくないと思うなら、最も危険と思える相手の懐に飛び込みましょう。
逃げて距離を置くよりも、距離を詰めてみることで案外、攻撃を受けないこともあるはずです。近距離のコミュニケーションを図ることで敵対関係が解消することも期待できます。
さあ、敵が現れたときの対処はもう迷いませんよね?
困ったら右下です。
リン・ミンメイの「小白竜(シャオ・パイ・ロン)」を口ずさみながら相手の懐に飛び込みましょう。
(文/野中大三)
《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」をTwitterで公開中。