東海地方を中心に活動する、東大卒と京大卒による超高学歴アイドルユニット「学歴の暴力」。東京大学の工学部でシステム創生学を学んだなつぴなつさんと、京都大学の農学部で藻の研究にいそしんだえもりえもさんによって2021年の6月に結成されました。2人とも平日はそれぞれ別の仕事をしながら、休みの日はライブやイベントなど、「学歴の暴力」としての活動にささげています。
『fumufumu news』では、2022年の2月に彼女たちへのインタビューを敢行。学歴を全面に押し出したアイドル活動を始めたわけや、高学歴ならではの痛みを伺い、彼女たちの独特な感性や、抱えている悩みの深さに強くひきつけられました(記事:「勉強以外、なんの取り柄もない」東大卒&京大卒のアイドル『学歴の暴力』が歌う高学歴の苦悩)。
彼女たちの胸の内をもっと覗(のぞ)いてみたい、という思いで連載コラムの執筆を依頼したところ、ありがたいことに快諾。毎回テーマを設定し、メンバーそれぞれの“自分らしさ”を生かし、感じたことを文章にしてもらいます。
記念すべき第1回では、ゴールデンウィークに2人で行った神戸旅行を題材に、互いの紹介を交えながら、印象深かった出来事や相手への思いをつづってもらいました。
なお、「学歴の暴力」は2022年5月8日、名古屋大学卒の新メンバー・あずきあずさんの加入を発表し3人体制に。今後はあずきあずさんにもご登場いただきますが、今回は加入前のエピソードということもあり、なつぴなつさん、えもりえもさんの2人のみに執筆いただいています。
東大卒女子と京大卒女子ではじめて旅行した話~えもりえも編~
私、えもりえもとなつぴなつは、『学歴の暴力』というアイドルユニットを組んでいる。東大卒のなつぴと京大卒の私でやりたい放題セルフプロデュースで、アイドル活動をしている。
アイドル活動以外ではじめて一緒に行動
2022年のゴールデンウイーク、私たちは神戸のライブハウスに出演する機会をいただいた。思い切って、「ライブの次の日、神戸で遊ばん?」となつぴに提案してみると「サイコー!あそぼ!」と、すぐに返事が来た。
私は人を誘うのが苦手で、「相手は望んでいないかもしれない……」と躊躇(ちゅうちょ)してしまうタチだ。思えばアイドル活動を始めたのも、アイドル活動という共通の目的がないと同年代との交流ができない、という問題があったからかもしれない。
彼女とは1年間、一緒に歩んできたとはいえ、アイドル活動以外で一緒に行動するのは初めてである。誘うのに少し勇気がいったが、彼女はまだ私にとって“えたいの知れない興味深い存在”であり、好奇心が勝ち、見事このたび一緒に遊ぶことに成功したのだ。
ライブの合間に、翌日の観光の打ち合わせをした。私は旅行のときに細かく計画を立てたいタチだ。現地のストリートビューを事前に見て、景観に合う服を選んだり、どこのカフェやどの店に入るか考えたりと、あらかじめ決めておきたいのだ。だが、これが許されるのはひとり旅のときだけで、誰かと行動するときにがんじがらめではよくないということは、さすがに分かってきている。
彼女のリクエストとしてステーキが食べたいということを聞いていたので、ひとまず予約だけはすることにした。あとは、山側にある北野異人館のスタバに8時30分に集合し、午後は海側のチョコレートミュージアムがあるエリアに行く、とだけざっくり決めた。
神戸は大学時代によく遊んでいた街なので、また行けることが楽しみだ。
“映え写真”におそろいグッズ、楽しい時間の中で
当日の朝、着替えと化粧をすませ、ホテルに荷物を預け、出る準備を完璧にしていると、彼女から「ごめん、集合時間9時にしていいかな……?」とLINE。開幕早々、遅刻である。とてもマイペースな様子が伺える。
「いいよー! 先スタバ入ってるね!」と返事。待たないスタイル。
なぜなら北野異人館のスタバは山の中腹(?)にあるので、たどり着くのに時間がかかるうえ、登録有形文化財の建物にあるため、何としてでも前もっていい席をとって“映える写真”を撮りたいからである。窓側のとてもいい席で写真を撮って楽しんでいると、彼女がやってきた。なんと、クソデカキャリーを持って山を登ってきた(預けてくると思った)! 傾斜を気にしないスタイル、すごい。
そこからの観光はとても楽しく、北野異人館に出るとウワサの幽霊を探したり、置いてある家具が、私の好きなホラー映画『ミッドサマー』のようだと話したりした。思えば、今まで好きな映画についてなどを話す機会もなかった。
途中、大学時代に気に入っていた靴屋を見つけた。まだあった。とても履き心地がよく、足が疲れない。まだ店があったことでとてもうれしい気持ちになり、2足も買ってしまった。彼女も気に入った靴を見つけ買っていた。自分の気に入った店を相手も気に入ってくれるのはうれしいことに気づく。これからも観光を続ける中、靴が荷物になってしまうのは嫌だが、彼女と同じ紙袋を持っていると、なんだかより仲よしになれた気持ちになり、靴2足を持って歩くことも苦でなくなった。
北野異人館の観光を終え、クソデカキャリーを引いて山を下りる彼女は、何を考えているのだろう。
3年前、Twitterでうつの状態が私と似ている東大女子がいることを知った。なんとなく幸せになれない感じに共感し、アイドル活動に誘った。私は薬により今は寛解したが、うつだったとき、このように楽しい旅行の最中でも、何の前触れもきっかけもなく暗雲が立ち込め、たちまち心が地獄に落ちてしまう瞬間があることを思い出す。ツイートを見ていると、彼女はたまに地獄に陥ってるようだ。落ちないだろうか。そんなことを考えながら山を下りた。
「わが子のような神戸牛」やスイーツたちに舌鼓
彼女の妹オススメのステーキ店に着いた。すぐに私たちの肉が、生の状態で運ばれてきた。目の前で焼いてくれるスタイル。2人分のグラム数をあわせた、ひとつの肉塊を焼いてくれる。同じ肉の塊をわけて食べるのは、昔の狩猟民族のようでよい。彼女はウェルダンが好きとのことで、私はミディアムレアが好みだが、彼女と近い気持ちになりたくて同じくウェルダンにした。
待っているあいだ、自分たちの肉を「可愛いね、愛しいね、わが子のようだね」とほめたたえた。ガーリックチップと肉の香りも「ビニール袋に入れて持ち帰りたいね」。箸で切れるくらい柔らかく、おいしい。「同じプレートで焼かれたもやしは、もはや肉に昇華している」とも話した。
食後のアイスコーヒーにストローが添えられていたが、彼女はグラスから直接飲んだ。「ストローがあったのに気づかず、豪快に飲んじゃった」「今、肉食べたあとだし、口がやんちゃになっているから仕方ない」と話した。
店を後にし、海側にある「フェリシモ チョコレート ミュージアム」まで下る。
大学時代はよく神戸に来ていたが、その当時はまだなかったこのミュージアム。入った瞬間、チョコレートの香りがした。カカオ豆にアロマが炊かれている。2人とも魅了されすぎて「これを甲子園の土のように、持って帰ろう」と提案してしまった。
「無数に展示されたチョコレートの中から合言葉が書いてあるチョコレートを見つけ出すとプレゼントがもらえる」とのことで血眼になって探したり、写真を撮ったりしてはしゃいだ。
大丸百貨店の勢力におののきながら、帰路へ
海の近くのカフェでケーキを食べたあと、今度は彼女の妹おすすめのクッキー屋さんをめざした。大丸百貨店の中にあるそうで、“金持ちそうなマダムのあとをつける”ことで大丸を目指した。狙いどおり大丸にたどり着いたはいいが、建物の4面が何かしらのブランドショップの入口になっており、庶民の私たちの侵入を阻んだ。途方に暮れていると、なんと私たちのいる建物の隣も、その隣の建物にも大丸と書いてあることに気づいた。「もはや神戸の街全体が大丸に飲み込まれてしまったのでは!?」と思い、さまよっていると、庶民の群衆が流れている建物があり、ついていくと目的のクッキー屋さんにたどり着くことができた。
帰りは、乗る電車の時間が違ったのでそこで自然に解散になり、各自の時間を楽しみ、帰路についた。
この旅行を通じて感じたこと。彼女とはコミュニケーションがスムーズで、嫌になることはない。チケット取得や予約も、どちらかに負担が偏ることなく自然に役割分担をし、お互い快適に過ごすことができる。少なくとも私は楽しかった。
この日は練習をしたわけでもなく、レコーディングをしたわけでもない。アイドル活動に生かせることはしていないが、そもそも私たちは楽しむためにアイドル活動をしているので、なんの問題もないのだ。むしろ、このかけがえのない時間を過ごすためにアイドル活動をしている説もある。一緒に遊んでくれた東大卒女子に感謝。
東大卒女子と京大卒女子ではじめて旅行した話~なつぴなつ編~
東大卒の私・なつぴなつと、京大卒の相方・えもりえもからなる超高学歴アイドルユニット「学歴の暴力」。世間は東大VS京大の構図を求めているのか、「本当に仲いいの?」と聞かれることが多い。私としてはとても仲がいいと思っているのだが、確かにライブ以外でしっかり2人で遊んだことはない。このままでは不仲説が出て裏で学歴マウントを取り合っていると誤解されかねない……! グループ存続の危機を感じ、神戸での遠征ライブの翌日、2人で観光旅行に行くことにした。
本当はえもちゃんのほうから「次の日遊ばん?」と提案してくれて、人を遊びに誘う際、“誘ったら迷惑かな? 私なんかと一緒に時間と体力と金を消費させるなんて申し訳ない”とまで考えて誘えなくなってしまう私は、とてもうれしかった。私にはほとんど友達がいないし、えもちゃんとアイドル活動以外の面でももっと話したいと思っていたので、1週間くらい前から遠足前の子どものように楽しみで、そわそわしていた。前日はあまり眠れなかった。
睡魔に襲われ、まさかの出来事が相次ぐ
神戸での1日目は昼帯と夜帯で2回ライブに出させてもらった。「押忍フェス」という名前のアイドルフェスで、主催者さんが会話の要所要所で控えめに「押忍……」と言うのが可愛かった。
先述のように、私は前日あまり眠れなかったうえ、のどの不調が心配で風邪薬を爆飲みしていた。眠くなるタイプのやつ。そのせいか倒れそうに眠くて、ライブの合間、楽屋にあるソファで目を閉じて休んだ。目を開けたらライブ15分前で、しかも隣に座っていたはずのえもちゃんが消え、金髪の強そうなアイドルになっていてとても驚いた。いつの間にか、ほかのアイドルさんと場所を交代したようだった……。
ライブはとても楽しかった。私は歌って踊ることが大好きだ。ライブハウスはとても天井が高く開放的だった。神戸の人は背が高いのだろう。
ホテルはお互い別々にとった。社会人なので懐には余裕がある。私の勝手な想像だが、彼女も私と同じく「人とずっと一緒にいる」ことがあまり得意ではないんじゃないかと思う。
翌日、アラームの音で目を覚ます。私は本来起きるべき時間と、準備を極限まで省けばギリギリ相手を怒らせない範囲の遅刻(3~5分ほど)ですむ時間の2回、アラームをかける。このアラームは前者だった。どうしよう、死ぬほど眠い。この状態で起きても観光に耐えられず眠すぎて不機嫌になってしまいかねない。仕方ない、プランB(後者)に変更だ……。再びアラームが鳴る。なんだこれは。死ぬほど眠い。今すぐ飛び起きて準備をしないと間に合わないのに、身体は布団を求めている……。
えもちゃんは朝が強い。朝が早くてもほとんど遅刻をしない。「遅い時間だと混むから朝8時にスタバに集合しない?」と言われたときは、平静を装いながらも「マジか……」とビビっていた。遅刻のにおいがしたので8時30分にしてもらったが、それでも余裕で無理だった。結局、9時集合にしてもらった。なのに間に合わなくて、「これ以上待たせては信頼問題にかかわる……!」と、キャリーを預けるロッカーも見つけられないまま、スタバまでの山道を爆走した。
似ているようで似ていない私たち
ようやく着いた異常におしゃれなスタバでは、すでにえもちゃんが西洋のお屋敷にあるような席でコーヒーを飲んでいた。彼女は昨日とは別の、オレンジ色のレトロなワンピースを着て、三つ編みにベレー帽をかぶっていた。景色にぴったりの、すてきな装いだった。
一方の私は、昨日と同じワンピースに同じ髪形。私も可愛い格好をするのは大好きだが、それ以上に効率と楽さを求めて、見た目との妥協点を探るタイプだ。こういうところが違いが出て面白いなと思う。どちらがいいとかではなくて、互いに根本では似ている(気がする)のに、そこから表出する行動様式が全く違っていて、しかし、それらを強要し合うところがないのが心地よい。
「コイツ、面白いな……」相方の発想に拍手
そのあとは北野異人館を観光した。お目当てだった幽霊が出るとウワサの館は、改装中で入れなかった。かろうじて窓は見えたので、幽霊がチラ見えしないだろうかと、真っ昼間の空のもと2人で凝視していた。えもちゃんは「幽霊のグリーティングタイムを設定しておいてほしい」と独自の論を述べていた。
彼女の発する言葉のつくりや発想が面白くて、私はとても好きだ。共感できると同時に、「こんなこと私には思いつかないな」と感心する。
このあと、神戸牛のステーキを食べたときには、食後のアイスコーヒーをストローを使わず直飲みする私に「口がやんちゃになってるんだね」と言う。チョコレートミュージアムでは、展示してあるいい香りのカカオ豆の山を「甲子園の土みたいに瓶に詰めて持って帰りてえ」と言う。おみやげを買うために大丸を探してさまよっているときには「もはや街全体が大丸に飲み込まれているのではないか」と推察する。
私は恥ずかしながら自分のことを面白いと思っているのだが、その私でも「コイツ、面白いな……」とよく感じる。カメラを回しておいて、面白い会話をYouTubeにアップすればよかったな。
エンディング〜妖艶な女性の香りに包まれて〜
事前に別々でとっておいた電車の時間が迫ってきていたので、一緒に夕飯も食べず、16時には解散した。私は夜まで遊んで疲れ切って、23時とかに家に帰って次の日のことを思って絶望するのが嫌いなので、こうしてあっさりと解散できるのは本当にありがたい。もちろん、決して一緒に遊んでいるのがつまらなかったわけではない。むしろ、すごく楽しくて、「ずっとこんな日が続けばいいな」と思った。なんだか幸せな気持ちだったので、帰りに寄った名古屋駅では、ずっとほしかった2万5000円の香水をエイヤと買ってしまった。
余談だが、私は香水が大好きだ。自分がなれる見た目には限界があるが、香りには限界がない。好きな香りをまとえば、短時間でもその香りになれるところが好き。特に、いい香水は、ただ単純に〇〇の香りというだけでなく、場所も、空気も、それをつける人間までも想像させてくれるから好き。その日に私が買ったレバンゲルボワの『エクレティック』という商品は、パリのナイトクラブで赤い口紅をつけて毛皮のジャケットを羽織った、妖艶な女性の香りがする。私はただの小太りのうつ病女だが、こうして楽しいことを少しずつ積み重ねて、いつかこの香りが似合うくらい強い女になりたいなと思った。
(文/「学歴の暴力」えもりえも・なつぴなつ)
◎「学歴の暴力」Twitter→@violenceofgkrk
◎えもりえもTwitter→@emofairystar1
◎なつぴなつTwitter→@natsupikkk
◎あずきあずTwitter→@azuki__info
◎「学歴の暴力」YouTubeチャンネル→https://www.youtube.com/channel/UCQA_7HGBG5Ezz_gsAlXbIsg