朝ドラ『舞いあがれ!』の第21週(2月20日〜24日放送)で、ヒロイン・舞(福原遥)と幼なじみの貴司(赤楚衛二)が結婚した。「大事な友達と、大事な友達が、家族になりました。めっちゃうれしくて、ちょっと、さみしいです」。もう1人の幼なじみ久留美(山下美月)のこの台詞が泣けて、よい朝ドラだとしみじみする。ささやかな人たちがささやかに歩む。それが人生だと思えるのだ。だけど、このところ、見るたびに気になることがある。20週から登場した毎報新聞記者・御園純(山口紗弥加)の言葉遣いだ。
24日放送では、オープンファクトリーの打ち上げが描かれた。舞が中心に企画して、大成功、町工場のおじさんたちに舞は「次はもっとパワーアップしたオープンファクトリーやりませんか?」と提案した。その横にいたのが、御園。「次回は準備から取材させて」と舞に言っていた。御園さん、やっぱりそうだよねー、と気になってしょうがない。
何を隠そう、ということもないが、私は元新聞記者だ。朝ドラが大好きで『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』という本も出版したのだが、その前は新聞社に30年近く勤めていた。だから御園が登場したときから注目していたのだが、「タメ口」連発の取材ぶりにちょっと困っている。
1週間だけゲストとして出演、ヒロインに刺激を与える役どころかなと思っていたのだが、そうではないらしいことがわかってきたからだ。22週の予告編によれば、どうやら御園は舞と2人で起業するらしい。きっと出番も増えるだろう。だとすると、あの言葉、何とかならないかなー。
初登場は、お好み焼き屋「うめづ」。きっかけは、おかみの雪乃(くわばたりえ)だった。板金工場を継いだという男性に、居合わせた舞と母・めぐみ(永作博美)を紹介、崖っぷちだったIWAKURAをどんどん発展させているのだから、あんたも元気を出せと言っていた。「わかった?」という雪乃に、遠くから「わかりませーん」と反応したのが御園。「どうして社長になられたんですか?」「工場では何を作ってらっしゃるんですか」と質問、「これからお邪魔してもかまいませんか」とこのときはちゃんと「です・ます」で話していた。
が、取材のシーンでなぜかタメ口になった。工場を案内した舞に「活気がある工場だね」と御園。現場でネジを作っている女性社員には、「今、時間ある? インタビューさせてもらってもいいかな?」。そして「さっき見せてもらったの、あなたが機械、動かしてるところ」と説明、「座って」と席をすすめる。「珍しいよね、女性の職人さん」「これが、あなたの作ったネジ?」と質問し、彼女が「そうです」と答えている。記者=タメ口、取材相手=です・ます。まるっきり逆。本田圭佑的にいうなら、「御園記者の言葉が雑い」と思う。
全国1万人(?)の新聞記者になりかわって申し上げるなら、タメ口記者はほとんど実在しない。「ほとんど」と少し弱気な表現になったのは、超ベテラン記者が超年下の取材先に「どうなの?」的に話すのを見たことがないわけではないからだ。が、それも「軽口ですけど」という雰囲気を醸し出し、打ち解けた空気を作ろうとしていたのであって、のべつまくなしのタメ口は、御園記者しか見たことがない。舞も女性社員も御園より年下ではあるが、年下ならタメ口でいいことがまったくないのは、どんな職業でもそうだろう。
と、ここで、少し古い話になるが、あの『ちむどんどん』の話をする。ヒロイン暢子(黒島結菜)の夫・青柳和彦(宮沢氷魚)が新聞記者だった。で、これがまたすごく緩い記者だった。なんせポイントとなる取材が、全部他人頼み。イタリア料理の料理人の取材はイタリア料理店のオーナーのおかげで成功し、沖縄のガマで遺骨収集をしている老人から話を聞けたのも、そのオーナーと上司のおかげだ。言葉遣いは普通に「です・ます」で、今から思えばそれはよかったけれど、それ以外に褒めるところが見つからない。
その点、御園記者はとても熱心だ。たまたま入ったであろう「うめづ」での会話から、取材を申し込む。「記事になりそう」とひらめいたら、ためらわない記者魂を感じさせる。ネジを作る女性社員から「(爪が汚れていても)マニキュアよりカッコええでしょ」という言葉を引き出すと、「そんなふうに思うんだ。ねえ、何でこの会社に入ったのか、詳しく聞かせて」と続けていた。相手のふとした言葉から話を広げていく。きちんと仕事のできる記者なのだと思う。
というわけで、誰か御園記者に「言葉遣いは丁寧にね」って教えてほしい、そうすれば、いい記者になるのに。と、心の中で先輩風を吹かせていたのだが、すでに書いたが、22週の予告が「舞と御園の会社設立」を示唆していた。御園記者、毎報新聞を辞めてしまうのかー。もったいないなー、と思ったのは、このところ記者の退職が多いと聞く古巣の新聞社のことを思ってのことだ。あ、もしかしたら、「副業」かな、それならいいな、などと思いつつ、新しい会社の行方と彼女の言葉遣いを見守る所存だ。
(文/矢部万紀子)