紫外線の秘密を探る旅もいよいよ終わりが近づいてきました。シリーズ最終話では、日焼け止めのメカニズムを伺って話を締めたいと思います。UVケア商品には紫外線をカットするだけでなく、肌の潤いを保つなど美白のための成分も含まれています。若いうちから紫外線対策をしておいたほうがいい理由を、コーセーの安全性・分析研究室の後藤祐一郎さんに伺います。
◎第2回:【紫外線#2】UVBは肌に急激なダメージを与え、UVAはジワジワとダメージを与える
◎第3回:【紫外線#3】知らなかった人は要注意!海水浴場に負けないくらい夏山は紫外線が強い!!
フムフムな発見9:レモンパック、キュウリパックが肌荒れの原因になることも
──私が子どものころなのでずいぶん古い話になりますが、海水浴に行ったり、運動会などのあと、母親はよくレモンパックやキュウリパックをしていました。
「レモンパック……、はい、やっておられる方もいらっしゃいましたね」
──レモンに含まれるビタミンCが日焼けをしてもシミになるのを防ぐと言ってたのですが……?
「私たち研究員の立場からすると、レモンパックやキュウリパックは、正直申し上げてお勧めできないんです……。というのも、たとえば無農薬のキュウリなどは身体にいいですよね。でも、食べたときに身体にいいものがお肌にいいとは限らないんです」
──すると、レモンやキュウリのような野菜、植物はできるだけ避けたほうがいい?
「いえ。むしろ植物には肌に有効な成分がたくさんあります。当社には、紫外線を予防するだけでなく、“雪のような透明感のある肌へ”をコンセプトにした『雪肌精』という商品があるのですが、こちらには“ハトムギ”や“シャクヤク”などの植物成分がふんだんに配合されています。
ただし、配合するときは肌に有効な成分だけを使うようにして、肌に刺激があるような成分は取り除きます。大事なのは、成分の一つひとつをきちんと調べて、保証されたものだけを使うことなんです」
──ハトムギならハトムギ、シャクヤクならシャクヤクに含まれる成分をすべて調べるんですか?
「はい。それはもう徹底的に分析したり、安全性の試験をしたりして調べます。それらの成分は肌にとって良い効果が期待できるのか、逆に悪影響を与えてしまわないものなのかを選別したうえで原料として使用しているんですね。
漢方のように、植物には古来から健康のために使われてきたものもあります。そうした植物も、きちんと評価できるものであれば、むしろ使わないほうがもったいないくらいなんです」
フムフムな発見10:UVケア商品=日焼け止め効果+美肌効果+快適な使用感
──ところで、UVカットというのは、どういうメカニズムで紫外線を防御しているのですか?
「原料で使われている“紫外線吸収剤”と“紫外線散乱剤”が紫外線を防いでくれるんです。それぞれメトキシケイ皮酸エチルヘキシルや酸化チタンなどですが、散乱剤には紫外線が皮膚に入ってこないように跳ね返す働きがあり、吸収剤はその成分自体が紫外線を吸収して肌への影響を軽減させます。
『雪肌精』の日焼け止めにはハトムギエキスも配合されているのですが、これらは紫外線をカットするためでなく、肌の潤いやみずみずしさなど、保湿効果を高めるために使われています。ハトムギにはアミノ酸も含まれているので、肌にとてもいいんですよ。
それと、さまざまな成分を配合するための“基剤”が使われます。基剤はそれぞれのエキスや散乱剤、吸収剤を混ぜ合わせて溶かすために使います。ジェルタイプのみずみずしさやウォータープルーフタイプの落ちにくさなど、肌に塗ったときの使い心地の良さは成分の配合バランスと基剤で決まります。
──すると、UVカット商品というのは、(1)日焼け止めの効果があって、(2)保湿などの美肌効果があって、(3)快適に使用できるもの……、の3つがそろってようやく商品と言えるわけですか?
「そうですね。UVケア商品に限らず、すべての化粧品、スキンケア用品に言えることですが。どんなに優れた日焼け止め効果があったとしても、塗った感じがゴワゴワするとか、ベトついて気持ち悪いという感想を持たれたら、お客さまは使ってくださいません。
だから、日焼け止め効果があるのは当たり前。そのうえで、美肌効果が期待できて、塗った感じも潤って気持ちいいと思っていただける商品を提供させていただいているんです。
そして、もう1つ忘れてならないのが安全性です。化粧品の安全性は法律(薬機法)で厳しく定められていて、成分として使っていいもの、使ってはいけないものがはっきり決められています。どのような成分が使われているかは商品の裏やパッケージにすべて表示するよう義務づけられています。これらを順守しながら、先ほどの3つをそろえる必要があるんです」
フムフムな発見11:日焼け予防の継続が、将来の“美肌”につながる
──時代をさかのぼれば、日本には小麦色の肌が健康的で美しいと思われていた時代があったように思います。ハワイ出身のアグネス・ラムさんが大人気になったり(75年)、故夏目雅子さんもブレイクしたのが「クッキーフェイス」のCM(77年)で、こんがり焼けていました。若い人は知らないかもしれませんが、クラリオンガールは夏の風物詩と言ってもいくらいで、80年代に入ってからも、中山美穂さんや早見優さんなどのアイドルは日に焼けていました。いつ頃から“美肌”や“美白”が意識されるようになったのでしょう。
「日本はもともと“美白”や“色白”に対する意識が強かったように思います。文化史的な側面は専門外なので詳しくないのですが、調べてみると、かわら版か何かの読本で、1813年には『美白の方法』という記事が書かれていました」
──200年以上も前ですね。そんなに前から“美白”という言葉があったんですか。
「はい。江戸時代にはもう感心はあったみたいです。それに、日本には昔から“色の白いは七難隠す(色白な女性なら多少の欠点があっても美しく見える)”という諺(ことわざ)もあるくらいですから。
ただ、最近になって、日焼けに関する意識が大きく変わったトピックが2つあるんです。
1つが“母子手帳”で、1999年に発行された母子手帳から“日光浴”という言葉が消されているんです。それまでは、妊娠期間中はできるだけ日光浴をしましょうというような記載があったのが、なくなりました。
もう1つが、2003年に環境省が『紫外線保健指導マニュアル』というガイドラインを出していることです。その後、何度か改訂されていますが、このガイドラインでは紫外線の説明や肌への影響、海外で行われている紫外線対策などが紹介されています。
1990年代にオゾン層の破壊が報告されると、それに伴う紫外線の脅威と皮膚がんの増加が問題視されました。世界的な規模で環境保全が叫ばれたのですが、そういった経緯もあったので母子手帳やガイドラインが策定されたのだろうと思います。
──今回のお話で、紫外線には十分注意しなければならないことがわかりましたが、日光浴もよくないんですね。
「いえ、紫外線にはビタミンD(強い骨や免疫力を高めるために必要な栄養素)を生成する働きがあるので、日光浴自体は必要なんですよ。ただ、過度に紫外線を浴びるのがいけないんです。季節や地域にもよりますが、夏なら30分、冬なら1時間くらいは日に当たったほうがいいというリポートもあります」
──運動やダイエットと同じということですね?
「はい。むちゃなダイエットは体調不良の原因になるのと同じように、紫外線を完全にシャットアウトすると、ビタミンD欠乏症を引き起こす可能性もあります。
近年、紫外線量が増えているというデータも散見されます。いま20代、30代の若い方は肌にハリや潤いもあって大丈夫と思っておられるかもしれませんが、紫外線対策を怠ったせいで50代、60代になったとき、本来あるはずの潤いやハリを失い、シミやシワができるのはとても残念なことです。
紫外線による肌ダメージは長いスパンで見ないとわからないこともあるので、将来に備える意味でも、若いときからの紫外線対策、UVケアをご提案させていただいております」
──紫外線はシワやシミの原因になったり、場合によっては皮膚がんの原因にもなります。だから予防が必要になります。つまり、UVケアを続けるということは、“美肌”や“美白”にたどり着くということであるわけですね。
「そうですね。紫外線による肌のダメージを防ぐのは、シミや皮膚がんを防ぐだけでなく、いつまでも潤いがあって、美しい肌を保つためとセットになっていると言ってもいいのかもしれません」
(取材・文/志谷恭作)