’91年にマンガ連載、’92年にアニメ放映が開始された『美少女戦士セーラームーン』。今年はアニメ開始から30周年のメモリアルイヤーにあたる。
以前の記事(セーラームーンからプリキュアへ 、女性の強さに影響与えた「戦う魔法少女」の変化)でも紹介したが、いまだにその世界観は唯一無二。きらびやかで可愛い世界のなかでも、主人公たちが「ぼろぼろに傷つきながら悪と戦う姿」や「励まし合い、助け合う仲間との絆」が、少女向けにしてはリアルすぎるほど濃く描かれている。
そんなセーラームーンにハマる人は、いまだに増え続けているはずだ。なかでも「数年間にわたってTwitterにほぼ毎日、セーラームーンのことを画像つきで投稿している”真のオタク”」がいる。それが、関西在住のちびびさんだ。Twitterのフォロワー数は約1万3000人。彼女のアカウントは、キラキラした美しい世界であふれている。
ちびびさんはどうして、ここまでセーラームーンにハマったのか。また、オタクだからこそ分かるセーラームーンのすばらしさとは何なのか。たっぷりとお話しいただいた。
セーラームーン一色の“オタク部屋”にうっとり
──はじめまして~。今日はよろしくお願いし……す、すごい。背景がめちゃめちゃ可愛い! それはお花ですか?
そうなんです~。造花なんですけど、壁一面に飾りつけてます。可愛いって言ってもらえると、うれしいですね。だいたい「え~、何これ~」ってひかれちゃうんで(笑)。
──いやいや、これは可愛いですよ。私の勝手なイメージなのですが、普段の投稿を拝見していると、部屋一面がセーラームーングッズであふれているのかな、と。
おっしゃるとおりです。特に、今年はセーラームーン30周年でグッズもたくさん出ているので、もうめちゃめちゃ買い漁っています。まだ全然片づけきれていないんですけどね(笑)。
──すごいですね。家全体がセーラームーン一色だ……。
そうなんですよ。クローゼットにも、コミックス版のセーラームーンを貼りつけていて。生まれてこのかた、ずっとオタク気質というか。自分のハマってるものに囲まれるのが好きなんです。
──いや、ちょっともう想像のはるか上をいかれてました。
グッズが出たら、すぐ買ってコレクションして……。購入したものはTwitterにアップして、フォロワーのみなさんと「尊いよね〜」って言い合いながらコミュニケーションをとることを楽しんでいます。
女の子が変身して戦う姿が昔から大好き
──そもそも、ちびびさんはいつごろから「セーラームーン沼」にハマったんですか?
そうですね、初めて見たときから浸かってたっていうか……。3歳ぐらいのときに、再放送のアニメで観ていたんですけど。そのときから「本当に可愛いなぁ」って釘づけでした。もう、とりあえず「女の子が変身して戦う姿」っていうのが刺さったんでしょうね。
それで小さいころは「自分も変身して戦いたい」って思っていました。ぶっちゃけ、今もなれるものならセーラー戦士になりたいんですけどね(笑)。両親に買ってもらった「キューティームーンロッド」っていうスティック状のグッズを振り回してた記憶があります。
──いきなりハマっちゃったんですね。でも小さいときって、いろんな「可愛いキャラクター」に触れると思うんですよ。例えばディズニーアニメとか、「セーラームーン以外のかわいいコンテンツ」は経験されてきたんですか?
ディズニーのアニメも見ていたんですけれど、ただ「可愛いなぁ」ってくらいでした。ゲームっ子で『ポケットモンスター』をよくやっていたんですけど、結局、飽きちゃうんですよね。でもセーラームーンだけはずっと忘れられず、今に至ります。そう考えると不思議ですね……。
──セーラームーンは“何か”が違ったんですね。どこが特別だったんでしょうか。
そう言われると、私はもともと「スーパー戦隊シリーズ」も好きだったんですよ。だから、やっぱり「変身して戦う姿」が見られることも重要だったと思います。「ただ可愛い」だけじゃなくて「強い」っていう要素も魅力的だったんじゃないかなぁ。
──なるほど。セーラームーンは「強い」と「可愛い」の両方を満たしていたんですね。それが心に響いた。
そうだと思います。同じ系統でいうと『魔法騎士レイアース』とか『カードキャプターさくら』も好きでしたもんね。なんだかCLAMP作品ばっかりで恐縮なんですけど(笑)。
──ラインナップ的に私も同世代だと思うのですが、当時はマジで「CLAMP無双時代」でしたよね(笑)。でも、レイアースもさくらも強いし可愛いけれど、セーラームーンほどはハマらなかったんですね。
あっ、その違いでいうと、セーラームーンってメインのメンバーが5人いるんですよ。「スーパー戦隊シリーズ」方式ですね。だから戦いながら「セーラー戦士たちの絆」とか「友情」が描かれるんです。このストーリー性が、もう大好きで……。
──「可愛さ」「強さ」「関係性」の3つがそろっていることが、幼いちびびさんには「唯一無二の魅力」だったんですね。
そうだと思います。そう考えたら、セーラームーンってやっぱりすごいですね。いま再発見できました(笑)。
中高時代はセーラームーンが好きなことをひた隠しに
──小学生のころはどんなお子さんだったんですか?
もう幼少期から、根っからのオタク気質で(笑)。当時はゲームにハマっていましたね。友だちと遊ぶってよりは、1人で黙々と取り組んで極めるのが好きなタイプでした。これは今にも通ずるところですよね。
──なるほど。どちらかというとインドア派というか。
でも中学校で、友だちに誘われてバスケ部に入ったんですよ。
──おぉ、一気にアクティブに……!
そう。いま考えたら「よう、3年間も頑張れたなぁ」って(笑)。これも「セーラームーンが好きやったからハマれた」と思うんですよね。
というのも、バスケってチームスポーツなんですよ。みんなで力を合わせて、励まし合いながら相手チームに勝つっていう。さっき言ったセーラームーンの「絆」とか「友情」を、ドリブルしながら感じてて(笑)。
──なるほど~! バスケもセーラー戦士(初期)も5人で1チームですしね(笑)。
あ、ほんまや! すごい(笑)。
──じゃあ中学生のころはバスケに熱中しつつも「セーラームーンオタク道」を突き進んでいたわけですか?
いや、実は中学・高校はいったんセーラームーンから距離を置いていた時期がありまして……。
──えぇ! まさかの急展開だ。どうして離れちゃったんですか?
もう、完全に思春期ゆえですね(笑)。今は「推し」とか「オタク」って、ものすごくポジティブな言葉ですけど、当時は自分が「オタク」だって、ほんまに周りに言えなくて……。
──確かに、十数年前は「オタク」は、気持ち悪がられる風潮もありましたよね。
そうそう。「セーラームーン好きだなんて、ちょっとでもこぼしようなら、いじめられるんちゃうか……」って思ってましたね。「うわ、あいつ陰キャや」とか言われそうで。だから、学生時代はおびえていたと思います。
自分はもちろん、何よりセーラームーンが否定されるのが嫌だったんですよね。だから、学校ではひたすら隠していました。あと小学生のころに集めていたグッズも一部は捨てちゃったり……。いま考えたらほんまにもったいない……。
──「学校ではオタクであることを隠す」ってのは、20代後半以降の全オタクがうなずく話ですよ、ほんとに(笑)。
みんな言えなかったですよね。ただ、もちろんセーラームーンは大好きだったので、心の中では「いよいよ私も月野うさぎちゃんと同い年や!」って、うれしかったんですよ。「この興奮を誰にも言えない……」っていうもどかしさを感じつつ(笑)。
部活で生かした、月野うさぎの「包容力」
──なるほど。“ステルスセーラームーンオタク”だったんですね。
そうですね(笑)。だから周りからは認知されていなかったけれど、当時から「うさぎちゃんの生き方や考え方」を吸収していました。
──どんな?
例えば、うさぎちゃんの包容力ですね。中学のバスケ部のメンバーは、性格もスクールカーストもまったく違う女子が集まってたんですよ。だから、めちゃめちゃ意見が食い違うんです。
そこで「これはセーラー戦士と一緒や」と。セーラー戦士もみんな考え方が違うので、衝突することがあるんですよね。でも、うさぎちゃんは全部受け止めるんですよ。「自分と違う考えやから、あの子は嫌い」ってならないんです。
例えば、コミックス5巻で、セーラーウラヌス、セーラーネプチューン、セーラープルートというキャラクターが、仲間として登場するシーンがあるんです。最初は馬が合わなくて、もともとのセーラー戦士たちとケンカになるんですよね。一緒に戦うことを拒むんです。
で、その結果、3人がピンチになっちゃうんですよ。もとから仲間だったセーラーヴィーナスは「助ける必要ないよ」って言うんですけど、うさぎちゃんだけは、すぐに助けにいくんですよ。「仲間だもん」って。
──おぉ……寛大だ。
私も「チームメンバーの意見を受け止めよう」と思いましたね。というか、周りのみんなに対して、もっと優しくなりたいって考えていました。それくらい、当時から自分の身の回りのことを、セーラームーンのフィルターを通してとらえていたんです。
──セーラームーンのおかげで「優しさ」を学べたっていうのは、すごく幸福なことですね。
ですよね。小学生のころはやっぱり、ただ「可愛い」ってだけだったんですけど、中学・高校のころからセーラームーンの「哲学」とか「思考」も意識し始めましたね。
──多感な思春期の時期にセーラームーンの「ソフト面」が入ってきた。
はい。もう少しうさぎちゃんの包容力を掘り下げていいですか?
──もちろん。
根本には「先入観を捨て去る」っていう姿勢があると思うんです。関わる前から勝手に「あの人、怖いから近寄らんとこう」とか思わず、誰にでも気さくに話しかける。まずは相手をラベリングしないってことが、包容力ですよね。
中学生くらいから、うさぎちゃんの優しさに憧れがあったので、私も男女問わずいろいろな人に話しかけていました。周りにはセーラームーンオタクであることを隠していたんですけど、姿勢は完全にうさぎちゃんだったっていう(笑)。
「ステルスオタク時代」を経て「物欲大爆発時代」に
──いつごろまで周りに言えなかったんですか?
高校卒業まで隠してましたね。
でも、大学に入ってからは「もう、隠さんとこう」と。その時期からだんだんオタクが受け入れられ始めたんですよね。それで「私はセーラームーンが好きや!」と高らかに宣言していました(笑)。
──あぁ私も同世代なので、すごくすごく分かります。2000年代後半くらいから、だんだん「オタクであること」が許され始めた、という雰囲気を感じましたよね。
そうですよね。それで中高6年間の“我慢”が大爆発しまして……。バイトで稼いだお金をほぼ使って、毎日のように『まんだらけ』(マンガ本やアニメグッズなどを販売する店舗)でグッズを買い漁っていました(笑)。しかも整理もしないので、自分の部屋が段ボールだらけでした(笑)。周りにセーラームーンオタクもいなかったので、ひたすら1人で眺めてニヤニヤして……。
──そのころからグッズが増え始めたんですね。
はい。それから今日まで、グッズをひたすら集めています。社会人になってからはコスプレをしたり、Twitter上でセーラームーンのグッズを交換するようにもなりました。ちょうどセーラームーン20周年とか、25周年とかでグッズが大量に発売されたこともあって、セーラームーンオタク界隈で「推しのグッズを交換する」っていう文化があったんですよ。
セーラームーンがいたから苦境を乗り越えられた
──なるほど。セーラームーンのグッズを集めるっていうのは、単純に「オタク精神」というか……。「好きなものに囲まれたい」っていう気持ちからなんですか?
そうですね。もちろん見ているだけで「あぁ、可愛い!」ってなるので、もう幸せなんですけれど。つらいことがあったときに、引き出しを開けて眺めていたら安心できる、という気持ちもあります。“心の栄養剤”ですね。
──「心の栄養剤」ですか。
はい。私、もともとちょっとネガティブな部分があったんです。たぶん、みんなにセーラームーンを隠していた時期くらいから芽生えたと思うんですよね。「表に言えない」っていう“引け目”があることで、ちょっと自己評価を下げてしまったのかもしれないです。
それで「私は誰かにとって必要なんかな?」って、つい自分を否定したくなってしまうこともあって……。そういったときにグッズを眺めていると、セーラー戦士たちのことを思い出して、勇気づけられるんです。
──それは何か特定のストーリーを思い出して「よし、私も頑張ろう」と思えるという感じなのでしょうか。
そうですね。セーラームーンは名話ぞろいなので、いろんな“回”から元気をもらえるんですけど、特に思い出すのは、コミックス8巻です。敵組織、デッド・ムーンの女王・ネヘレニアを、うさぎとまもちゃん(タキシード仮面)が協力して倒すシーンですね。
戦いに勝ったあとに、まもちゃんが「戦いが終わっても胸が熱い」って不思議がるんです。それにうさぎが返した「誰でもみんな胸の中に星をもっているのよ。そして胸の奥が熱いのは星が輝いている印なの」って言葉が、もうたまらなくて……。
──「誰でもみんな胸の中に星をもっている」って、すてきな言葉ですね。
本当にいいセリフですよね。まもちゃんは戦闘能力ではセーラームーンより劣っているんです。でも「大切な人や場所を守りたい」っていう強い気持ちを持っていて……。
「星」は情熱とか使命を表しているんだと思っています。私も心が弱くなったときはこのシーンを思い出して「自分も何かの使命をもって生かされているんだ」「よし、闇や暗黒の心に負けないように、星を輝かせて頑張ろう」って。
──うさぎちゃんがあまりにカッコよすぎる……。セーラームーンは本当に「生き方の教科書」ですよね。
そう。本当にこの言葉がなかったら、たぶんどこかで心が折れていましたね。
──今回、人生を通してセーラームーンとの関わりを聞かせていただいたんですけど、これだけコンテンツが世にあふれているなか、セーラームーンを推し続けている理由が分かった気がします。いつの間にかセーラー戦士の考え方がちびびさんに染みついている、というか、もう「ちびびさんがセーラームーンになっている」と思いました。
これも、本当にいろいろな偶然が重なった結果というか……。セーラームーン用語でいうと「ミラクルロマンス」なんです。親がセーラームーンを見させてくれて、セーラームーンにハマっていると暴露したときも周りの友人が認めてくれて、今に至ると思います。
だからセーラームーンがすばらしいのはもちろんなんですけど、私の場合は「周りのみんなのおかげで人生を豊かにしてもらえたなぁ」って思いますね。
──「みんなのおかげ」と思えるのが、真に豊かである証拠ですよね。すてきな考えをお持ちです。
いえいえ、そんな私なんて。そんな………ごちそうさまです(笑)。
──(笑)。現在、ちびびさんはTwitterでセーラームーングッズのコレクションなどを見せてくださっています。こちらの活動は今後も続けていくんでしょうか?
そうですね。もちろん続けていきます。
今がいちばん「推し活」が楽しいんですよ。自分が学生時代のころは、好きでも交流しにくかったので(笑)。昨今は「推しがいること」がすばらしいと思える世の中になっていて、大声で好きなものへの愛を語れる。フォロワーさんとの交流も楽しいですし、私の投稿がきっかけでセーラームーンにハマる方がいらっしゃったこともうれしいですね。
ちょうどアニメ放映から30周年で、セーラームーンオタク界隈的にも盛り上がっているので、もっと多くの方に“セーラームーン沼”につかっていただいて、コミュニティでワイワイ楽しめたらうれしいです。
ちびびさんはインタビュー中、ユーモアで場を和ませてくれたり、慎重に言葉を選んだりと、常に私を気遣ってくださった。率直に「また話したくなる方だ」と思った。彼女はセーラームーンから学んだ「優しさ」を、今や完全に自分のものにしているのである。
うさぎの周りにいつも人が集まるように、ちびびさんのツイートのリプ欄には、さまざまなセーラームーンオタクがニコニコしながら集まっている。それはもはや、セーラームーンのすばらしさ、というよりちびびさんの人間性によるものだ。
インタビューの中にも出てきたとおり、セーラームーンにはあらゆるキーワードが詰まっている。「可愛らしい衣装」「華麗な技」「戦う少女たちのたくましさ」「日常的なメンバーとの友情」「ロマンチックな恋愛」「寛大な母性」などなど、本当に幅広いメッセージが込められた作品だ。
このすべてが「人生」において大切な要素である。もしあなたがセーラームーンの世界観に少しでもグッときたのであれば、それがセーラームーンと同じ国に生まれたミラクルロマンスだ。だから、ここは素直になって“沼”に足を踏み入れてみることをおすすめする。その沼には、あなたの人生をより豊かにしてくれる魔法が詰まっているはずだ。
(取材・文/ジュウ・ショ)
毎日セーラームーンの写真を投稿する、ちびびさんのTwitterアカウント→@chibi_rabbit_