深刻な暴力支援団体関連の問題を憂う斎藤環氏

暴力的支援団体への疑念

 川崎市、練馬区の事件に比べると、そこまで話題にはならなかったが、「ひきこもり」という社会問題の文脈でみると、非常に大きな意味を持つ事件もあった。'19年11月、静岡県浜松市の新東名高速自動車道で、1人の男性が車から飛び降り、亡くなったのだ。

 警察は自殺と処理しているこの一件だが、静岡新聞には「亡くなった男性は、神奈川県の自立支援施設に向かう途中だった。同施設の職員2人が前の座席に同乗し、後部座席には男性が1人でいたという」と報じている。

 この事件、ひきこもり問題の当事者や関係者の間では、暴力的なひきこもりの自立支援団体が関与している、との見方が強い。

 ひきこもり当事者を強引に引き出し、自立支援を謳(うた)う“暴力的支援団体”に詳しいジャーナリストの加藤順子さんは、『Yahoo! ニュース 個人コーナー』で、下記のような記述をしている。

《しかし、このニュースは瞬く間に、ひきこもりの当事者や関係者の間で話題になった。高速を走る車から飛び降りようと思ってしまうほど、男性が追い詰められていたであろう状況が容易に思い浮かび、長距離を新幹線ではなく、施設の車で連れて行くという点と併せて、事故が、「引き出し屋」による手法を彷彿(ほうふつ)とさせたからだろう》

《昨年12月に、連れ去り被害に遭った東京都内の男性(30代)は、「自分も、車に乗せられている間に、飛び出せないかと思っていた。同じ施設の被害者の人も、LINEに同じことを書き込んでいた」と話す。他人事ではないと、被害者たちは事故のニュースに衝撃を受けている》

 また、斎藤氏も同様の見解を示している。

「10年以上前から、家族が当事者に相談しないまま、共同生活型のひきこもり支援事業と契約してしまい、拉致監禁行為や暴力的な行為を受けてしまう事件が後を絶ちません。家族に対して“早くなんとかしないと、通り魔になるよ”などと言って不安を煽り、数百万円の手付金を払わせる。非常に悪質です。今回の事件もそういった“暴力的支援団体”が当事者を無理やり施設へ連れ出す過程で、逃げ出そうと飛び降りたのでは、と考える人は多いです」(斉藤氏)

 さらに、斎藤氏によれば、テレビなどのメディアがこうした団体を好意的に番組で取り上げたことで、その活動を助長してきたという。

「テレビメディアはひきこもり当事者の生態を映したい。しかし、まともな支援者であれば、被支援者を絶対に売らないので取材を断る。そこで、メディアに露出をして信用度を高めたい暴力的支援団体が、カメラを同行させて、放送させる。結果的に死者が出たり、後で訴えられることもありますが、未だに似た例が後を絶ちません」

 実名を挙げての注意喚起やBPO(放送倫理・番組向上機構)への通報もしているが、'20年1月にも同様のケースが民放キー局で放送された事例があるという。なぜか。

「結局は視聴者の反響が大きいんでしょうし、BPOは、こういった指摘を加味しない。『TOKYO MX』の番組で優勝賞品が届かなかった案件など、“やらせ”に関しては厳格な姿勢をとりますが、人権問題に関してはあまり相手にしてくれません。

 暴力的支援団体の活動を放送することは、拉致監禁行為や身体・行動制限を流しているといえるわけで、それを肯定的に世に出すのはおかしい、と指摘をするのですが、“虚偽はない”とのことなんですね。報道しているだけ、ということかもしれませんが、行為を助長しているのは明らかです」(斎藤さん)