30歳で訪れた“運命の出会い”
「こう見えても、妻と娘がいるんですよ」
高座でそう言うと、客席からは遠慮がちながら笑いが起こる。それをじっと聞きながら、ぴろきは言う。
「娘が僕にそっくりなんです」
笑い声が大きくなる。ぴろきは「いーっひっひ」と目を見開きながら「人の家族を笑わないでください」。
ぴろきが結婚したのは30歳のころだ。当時、住んでいた自宅の最寄り駅の前に都市銀行があった。その窓口の女性にひと目惚れ。隣にあった消費者金融で50000円ほどのお金を借りて、預金をスタートした。それからも定期預金に入れるお金を工面しては、毎週かかさず窓口に足を運んだ。
「あるとき定期が満期になったんですよ。彼女が“どうなさいますか”と言ったので、“これからは僕の愛であなたのハートを満期にします”と答えたんです。それがウケたかどうかは覚えてないんですが(笑)、そこから親しくなっていきました」
この話は本邦初公開である。ぴろきは「人間同士として相性がよかったんでしょうねえ」と照れた。
「今でも、僕がコンビニで食べたいものを買って帰ると、彼女も同じものを買っていたりするんです。月に何回も、そういうことがあるんですよ。本当に不思議。ケンカもしますよ。だけど、きょうだいゲンカみたいなもの。言いたいことを言い合っているうちに、すでに仲直りしている感じです」
“僕にそっくり”な娘は大学生。来春からは金融関係で働く。ん? ということは、その窓口に男性が現れて「あなたのハートを」と迫ることもありうるのではないだろうか。
「え、いや、それだけはやめてほしい(笑)。僕は人間ができてないんでしょうね。“娘が結婚して、どこか遠くへ行ってしまうかもしれない”なんて妄想をしただけで“うわーっさみしー!”って、泣きそうになるんですよ」
先日も、家族で旅行をしようかという話になったんですと、ぴろきが言う。
「家族会議をしたんですよ。妻と娘にどこに行きたいと聞いたら“お父さんのいないところならどこでも”って……(笑)」
新型コロナの影響で、来年の仕事までキャンセルが続々だと言いながら、ぴろきのネタは止まらない。
「僕、85歳までは高座に立ちたいと思っているんです。そのためには健康管理が大切ですよね。楽しみながら、大好きな仕事を続けていきたいだけです」
そこで、ぴろきの目が光る。
「今のご時世、まだ宴会もできないでしょ。それでも、営業活動のあとなどに集まりがあると聞かされたりもするんですよ。断ったほうがいいなあ、どうやって断ろうとさんざん悩んで。どう断ったと思います?」
さて……。
「誘われなかったんですよ」
明るく陽気にいきましょう〜。
(取材・文/亀山 早苗)
【PROFILE】
ぴろき ◎1964年1月1日生まれ。岡山県浅口郡里庄町出身、東京都在住。'86年に東八郎に師事。一度目にしたら忘れられない風貌で、自虐ネタをちりばめたウクレレ漫談を披露。寄席への出演や2か月に1回ペースでの独演会の開催を中心に活躍中。
【INFORMATION】
『ぴろき独演会』を2020年12月28日(月)、東京都中央区の演芸場『お江戸日本橋亭』にて開催! 詳しくはぴろきオフィシャルHP(http://www.office-piroki.com/)または、ぴろきのツイッターにて(https://twitter.com/piroki_tweet?s=20)