地中空洞が「太鼓」のような役割を

 住民によると、NEXCO東日本は陥没部分を夜通しで埋め戻し、翌朝には元通りにしたという。同じ場所ではいま、車などを通行止めにしてボーリング調査を続けている。

「1つめの地中空洞は、管を通して流し込みやすく中で固まりやすい『流動化処理土』で埋め戻し作業を完了しています。2つめの空洞についても作業に着手しています」(前出の同社広報担当者)

 不審な連続音の正体は何か。周辺住民を安心させるためには最低限、何が求められるのか。

 前出の高橋特任教授はこう話す。

「不審な音は、地下深くの工事による掘削音が地中空洞を伝わったことで増幅し、地上まで届いた可能性が考えられます。太鼓の音が鳴り響く原理と同じです。

 ほかにも地中空洞はあると考えたほうがいいでしょう。NEXCO東日本は掘削ルートの真上にあたる狭い幅しかボーリング調査をしていませんから、もっとエリアを広げて東西150メートルにわたって調べたほうがいい。地下で横断する谷の状況がわかりますから」

立命館大学の高橋学特任教授が考察する工事区間の模式断面図。地下水の上下動によって、シールドトンネルの真上だけでなく谷の「肩」の部分などにも空洞ができる仕組みがわかる(同教授の提供資料に基づき作成=スヤマミヅホ)

 調布市で中断しているトンネル掘削は、工事が再開できればこの先、三鷹市や杉並区、武蔵野市、練馬区と続く。

「調布市の道路陥没ではケガ人が出なかったのが不幸中の幸いでした。調布市に限らず、掘り進める先に地中空洞がない保証はありません」

 と前出の高橋特任教授。

 NEXCO東日本側はボーリング調査範囲を広げ、希望する周辺住民を対象に家屋の損傷調査を行うという。

 トンネル開通で大勢の人たちの利便性が向上するとしても、人の命と引き換えにできるはずがない。事故を未然に防ぐためにも徹底した調査が求められる。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙「法律新聞」記者を経て、夕刊紙「内外タイムス」報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より「週刊女性」で社会分野担当記者として取材・執筆する