1986年の紅白、少年隊はデビュー曲『仮面舞踏会』で初出場

【3】情熱の一夜(1999年6月発売)

 作詞を松井五郎、作曲・編曲を馬飼野康二が手がけた、エロティックなほど情熱がほとばしるラテン・ナンバー。これは、'99年春にリッキー・マーティンが大ヒットさせた『リヴィン・ラ・ヴィタ・ロカ』をいち早く日本に持ち込みたいとジャニー喜多川氏が意識したのではないだろうか。『リヴィン〜』は、同年7月に郷ひろみが『GOLDFINGER'99』として日本語でカバーし、「A CHI CHI A CHI」という意表をついた歌詞や、警察ざたになるほどのゲリラLIVE、さらに郷のド派手なパフォーマンス力で自身最大級のヒット(リミックス盤も含め約55万枚)となったが、少年隊の『情熱の一夜』は、この1か月前に発表されている。

 しかも、郷ひろみが洋楽をキャッチーな歌謡ポップスに昇華したのとは対照的に、少年隊のほうは、5分間の間に曲調がどんどん変わっていく。軽快なリズムに乗って歌う序盤から「ほんとはどんな 夢を見てたのか」と心の内を吐露するようなスローな中盤。そのあと、どんどん欲望の渦に巻かれていくようにテンポが速くなり、高音ボーカルがエスカレートする終盤に続くという、いかにも舞台映えしそうな構成だ。

 これは、3人が続けてきたミュージカル『PLAYZONE』での披露を当初から意識していたのか、のちに演出家としても活躍していく錦織のこだわりだったのか、とにかく広瀬香美にも歌ってほしいほど難しい。さらに彼らの場合は、激しいダンスをしながらの歌唱であり、単に突っ立って歌う素人とはワケが違うのだ。近年はYOASOBIの『夜に駆ける』やKing Gnuの『白日』などハイレベルなボーカル曲も多いので、オリコン最高24位だからと曲を飛ばさずに、じっくり聴いてほしい。

 ちなみに、この'99年から'02年にかけて、少年隊はバラエティー番組『少年隊夢』や『少年タイヤ』を担当していたが、3人の活動はますます拡散していた。東山はゴールデンタイムの主演ドラマ俳優として活躍。森光子が足しげく自宅に通うことを面白おかしく書きたてられてもポーカーフェイスでいられたのは、毎日腹筋2000回など、超ストイックに心身を鍛え続けていたからだろうか

 錦織は、ぶっきらぼうな短髪にサングラスと、敬愛する矢沢永吉風のいでたちに。舞台で声を張ることが多いのか、はたまた朝まで演劇論に花を咲かせていたのか、声がどんどんハスキーになり、キラキラなテレビスターとは異なる道を歩み始めた。“歌もダンスも本格的”という類いまれな演出家となるべく地固めをしていたのだ。

 植草はメタボ体形でもないのに、3人で並ぶとどうしても“フィーリングカップル5vs5の5番”的な話のオチを受ける立場にいながらも、'20年の新録音盤に至るまで、高音ボーカルを難なくこなすのが心ニクイ。今後も、ソロ歌手としてさらなる活躍を期待したいほどだ。東山に正論でツッコミを入れられても(これもヒガシの愛情表現だろう)、足の大ケガで回復に相当なダメージを負っても、歯を出してケラケラと笑い続けるというのは、ある意味、相当の大器ではないだろうか。

 以上、'90年代の3曲だけでも長くなってしまったので、また機会があればベスト盤のDisc3収録のシングルのカップリング曲や、アルバムオリジナル曲もおすすめしてみたい。その中の1曲に『星屑のスパンコール』という、ジャニーズの後輩たちにも歌い継がれている人気曲があるのだが、その歌詞にある、

「もう一度アンコール もう一度アンコール またいつか会えるよね SEE YOU AGAIN」

 という言葉を信じて、古くからのファンも、近年、動画やテレビで覚醒(かくせい)してしまったファンも、少年隊を応援し続けるのだろう。

 彼らは解散はしていないのだから、3人がそれぞれの世界で輝き続ける限り、またいつか会える可能性もゼロではない。それまで、今回紹介した3曲をはじめ、噛むほどに味が出てくるスルメ系の楽曲満載のベスト盤を楽しんでみてはどうだろうか。

(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)