客観的に見て表現する
いつ? 誰の事? と詠み手の興味をかき立てる
句(2)怒鳴る人の口ばかり見て鰯雲
「悪口を感情に任せて詠むのが悪態俳句ではないの。怒っているその瞬間の状況とか自分の姿を客観視して、俳句を作るのです。『怒鳴る人』の句(2)は、怒鳴っている人の口ばかり見ている自分、ふっと目を空に向けたら鰯雲に気づいて、そこを切り取って俳句にしています。私も同じような気持ちを経験したという声が多数寄せられました。背景や事情がわからないからこそ、他人の経験に自分を重ねられるのですね」
つまり悪態俳句の作り方の第1ポイントは、怒りの状況や感情をストレートに詠むのではなく、その場面を客観視し、どう表現し伝えるかなのだ。
「上手な人ほど、具体的な状況は詠まない。下手な人ほど、誰と、何があったか書き込もうとするのよね」
腹が立つときこそ俳句作りのチャンス
怒りを客観視できるようになると、今まで不愉快であったことが、楽しくなってくると夏井さん。そんなことってあるのだろうか?
「嫁姑の関係で、気の利かない嫁だと腹を立てていたとします。それでバトルも起きたりしているかもしれません。でもこれが俳句のタネになるとスイッチを切り替えたらどうでしょう。お嫁さんに対する見方が変わってくるでしょう。お皿の洗い方の雑なのも、洗濯物をシワのままで干すのも、俳句のタネになるならば、今まで腹が立っていたことも“またやってくれましたね”とほくそ笑むことができますよ」
そうなれば、嫁姑の関係も変わってくるだろうと、なるほど納得だ。悪態俳句の作り方のポイント2は、俳句にしようと思えば、腹が立つことに対しても余裕の心で対峙できるということだ。
怒りをユーモラスにクールに表現する
句(3)見知らぬ君らに雪うさぎを贈る
句(3)の『雪うさぎ』はかわいらしくも読める。でも、この恩知らずめ! と煮えたぎる怒りが、クールに込められている。
「雪うさぎはとってもかわいいけれど、時間がたつととけてしまうじゃない。あなたたちは、この雪ウサギのようにすぐに恩を忘れてしまうのだという皮肉です」
悪態俳句の作り方のポイント3は、クールに、またユーモラスにどう怒りを伝えるかにある。
「悪態俳句は、ただ悪口を詠むのではないことがわかってもらえたかしら。俳句は喜怒哀楽の気持ちを感情むき出しに表現するのではなく、言葉を紡いで“きれいなシャボン玉”を目指して詠むのです」
感情をうまく利用して、悪態俳句を詠んでみましょう。