アイドルの写真集を処分していた
前出のアパート住人が続ける。
「母子が一緒に歩く姿は見たことがないんです。いつも行動は別々でした。おばあちゃん(母親)は以前から足が悪く、ひとりで杖(つえ)をついて病院に通ったり、近所のスーパーまで買い物に出かけていました」
自宅玄関前には母親が使っていたとみられる杖が2本立てかけてあった。母親は握り部分のしっかりしたこの杖をつき、リハビリも兼ねて歩くことを諦めなかった。
その様子をよく目撃していた近所の男性住民はこう話す。
「人の何倍も歩くのが遅かった。ゆっくりと少し歩いては休み、また歩き出してといった具合。しかも真っすぐ歩けていなかったので、息子さんが一緒に買い物に行ってやればいいのにとずっと思っていたよ」
こうした証言を裏づけるように、周辺で母子のツーショットを見た住民は見つけられなかった。50代にもなれば母親と行動をともにする気恥ずかしさもないだろうし、むしろ手を引いてあげてもおかしくない。
「要するに親孝行じゃないんだよ。育ててもらった恩を忘れているんだろう」(同男性)
仕事にかまけて母親の世話がおろそかになったわけでもなさそうだ。
事件の速報を受け、竹春容疑者が会社員だったことに驚いた近隣住民もいる。
「恰幅(かっぷく)がよく、黒いトレーナーとだぶだぶのジーンズを履いて自転車で出かけるのをよく見かけた。ペットボトルの空容器をぎっしりと詰めた大きなビニール袋を2、3袋抱えていたので廃品回収の仕事などで臨時収入を得ているものと思い込んでいた」(同住民)
さらに気になる情報も……。
今年3月、病院からの通報を受けて警察が捜査に着手する直前、容疑者とみられる男が自宅から大量のごみを出したという。
「ごみ集積場にまとめて10袋ぐらい出していた。あまりに量が多いので何を捨てているのか見ると、古本とかアイドルの写真集みたいなものを本来は資源ごみとして出さなきゃいけないのに一般ごみとして処分していた」(同住民)
事件との関連性は不明だが、時期がかぶる点が気にかかる。
母親はやけどさせられた疑いが浮上した3月末以降、自宅には戻っていない。逮捕までの約3か月、竹春容疑者はひとりになった静かな部屋で何を思っただろう。幼きころ、聞き分けのない自分に母親はどう接したか──。そこに思いはおよんだだろうか。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する