日付を見なければ錯覚しそうなほど

 それにしても、なぜ神社は防犯カメラを設置していたのか。再び井上さんの話。

「ずいぶん前から賽銭泥棒の気配を感じていたからです。どう考えても賽銭が少ない。数年前には、ポチ袋に『賽銭泥棒さんへ』と表書きして中に手紙を入れたこともあります。手紙には『盗まないでほしい。泥棒はやめて』などと書いたんですが、翌日にはポチ袋ごと消えていました。その場で中身を確認せず持ち帰ったのでしょう。賽銭箱にはだれがいくら入れたかわかりませんが、どうもお札が少ない。それで今年6月3日にカメラを設置したばかりでした」(井上さん)

 容疑者の逮捕後、神社が過去の映像をチェックしたところ、あきれた新事実がわかった。

「防犯カメラを設置した日までさかのぼって録画内容を調べてみると、容疑者は毎日映っていました。社務所を閉めて無人になった時間帯を狙い、いつも同じ服装です。毎回盗みを働いていたわけではありませんが、逮捕案件のほかにも犯行があったため、追って3件の被害届を出しました」

 実際に映像を見せてもらうと、たしかに連日、神社を訪れている。社務所が閉まったあとだから人の気配はないにもかかわらず、あたりを何度も見回す挙動不審な様子がばっちり映っていた。伸縮する棒の先に粘着性物質を取りつけ、賽銭箱のすき間から巧みに紙幣を拾い上げる手口。逮捕案件のほか、6月7、9、14日のいずれも午後5時10分前後に犯行におよんでいた。

 犯行ルーティーンは正確だった。

「まず賽銭箱の中をのぞきこみ、それなりに賽銭があって盗むときは、小銭を放りこんでから合掌し、一礼したのち、賽銭箱に棒を突っ込んでいます。日付を見なければ錯覚しそうなほど常に同じパターンです。何かを祈っているというよりも犯行のカムフラージュでしょう」(前出の井上さん)

別の日の“余罪”も浮上(6月14日の平容疑者)=秩父今宮神社提供
6月9日の平容疑者=秩父今宮神社提供
6月7日の平容疑者=秩父今宮神社提供

 容疑者宅から秩父今宮神社までは直線距離でも約6キロ離れている。途中、少し遠回りして川を渡らなければならないほか、網の目のように道がつながっているわけでもなく、地域住民によると「実際上は片道約7〜8キロ、徒歩2時間はかかる」。しかし、容疑者はこの道のりを毎日歩いていたという。

「朝から晩までいろんなところで歩いている姿をよく見かけた。昔は車も持っていたし、自転車に乗っていた時期もあったが、ここ数年は常に歩き。神社との往復に使うルートだけでなく、少しはずれた場所で見かけたこともあるから1日20キロ近く歩いていたのではないか

 と近所の男性。