過労死問題についてのオンラインイベントで語る飯塚さん

――では、どのようにアプローチしますか。

「お父さんの代わりにはなれない」と自覚したうえで、とにかく一緒になって遊ぶだけです。私も60才を優に越えてしまいましたが、だっこしたり肩車をしたり、できるだけ身体を使った遊びをするようにしています。学校に通う子どもたちのなかには、不登校やいじめを経験している子もいるため、そこにも軽々しく踏み込んではいけないと感じています。ただ、息抜きの場を作ってあげたいです。

過労死問題について今、思うこと

――思春期以上の遺児たちにはどのような影響がありそうですか。

 保護者の方々から聞いた話では、残念ですが、お母さんとの関係に悩む人が多いようです。自分のなかで、お父さんが亡くなったことに納得できない部分があるのだと思います。その気持ちの持って行き場がなくて、「なぜお母さんは止められなかったんだ」と責めるような思いが生じてしまうのではないでしょうか。また、「子どもたちが、働くこと、社会に出ることをすごく怖がる」という話もしばしば聞きます。自分もお父さんと同じ道を歩んでしまうんじゃないか、という恐れがあるのだと思います。

――深刻な傷を抱えているのですね。悩んでいる遺児に対してどのように接しますか。

 交流会に来た遺児たちが悩んでいるなと感じたとしても、私などが簡単にできることはありません。先ほども言った通り、息抜きの場を作ってあげることくらいです。遺児同士でなければ分かり合えない部分もあるかもしれません。遺児交流会には、大学生や高校生の遺児も参加しています。交流会で同年代の子と意気投合し、とても仲よくなることがあります。この事業の意義深さを感じます。

――遺児交流会に参加した経験を踏まえて、過労死問題について言えることはありますか。

 過労死をめぐる報道では、主に配偶者を亡くされた方が取材を受けています。若い方が亡くなった場合は、そのご両親がお話をされることが多いです。一方で、メディアが取りあげていないだけで、子どもたちも傷ついて大変だということに思いをはせてほしいと強く感じます。過労死・過労自殺を出してしまった会社は、その方の両親や配偶者だけでなく、子どもも傷つけます。その傷は大人よりももっと深いかもしれません。そこまで思いを巡らせて、とにかく日本のすべての会社が、自らを戒めてほしいと思います。

(取材・文/ジャーナリスト・牧内昇平)
※このインタビュー記事は、筆者(牧内昇平)が8月4日に開いたオンラインイベント「『過労死』について考える」で行った飯塚氏とのトークセッションの内容に再取材を加え、構成しています。

※記事のタイトルと本文の一部を修正しました(2021年8月26日)


【PROFILE】
いいづか・もりやす ◎1955年、埼玉県生まれ。ノンキャリア官僚として通商産業省(現・経産省)に入省。現役官僚だった頃に過労死問題に関心をもち、早期退職後の'13年にNPO法人「ディーセント・ワークへの扉」を設立。過労死防止のための活動を続ける。明治大学大学院経営学科修了。社会保険労務士。「東京過労死を考える家族の会」会員。