ルネサンスのアートの特徴を代表作から読み解いてみる

 こんな背景があるので、ルネサンス美術は一気に「現実的」になっていく。作品の特徴も「想像上の舞台・2D・真顔」から、「リアルな土地が舞台・3D・感情表現豊か」に移り変わり、もうなんか、みんな「冗談が通じないビジネスマン」みたいな風潮に。

 また、同時に「古代ギリシャ・ローマからヒントを得た」みたいな作品も、しこたま出てくる。例えば、古代ギリシャの神がマリア様のポーズをとっていたり……。もうこれ、アレですからね。「ミッキーマウスがかめはめ波を打つ」みたいなことですからね。

サンドロ・ボッティチェッリ『春』(中央のギリシャ神話のヴィーナスはキリスト教のマリアを彷彿させる受胎した姿で描かれている)

 では、そんなルネサンスを象徴する美術作品を紹介しつつ、「ここがルネサンスっぽい」という部分を追っていこう。

◎ブルネレスキ作『サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(のクーポラ)』

『サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂』

 ルネサンスにおける美術の変化で最もデカいのは「遠近法」だ。ブルネレスキという建築家が「おや、われわれが見る景色はすべて集約する点(消失点)があるぞ」と「線遠近法」を発明したのがその起源である。この発見から、絵画には一気に遠近感が出てきて「3D」になっていくわけである。まさに、ルネサンス期の大発明だ。

 そんなブルネレスキの作品で有名なのが『サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のクーポラ』。クーポラとは、この画像の上のドーム部分である。もともと、このクーポラは足場を組めず、従来の手法では作れなかったのだが、彼は古代ローマの神殿『パンテオン』の建築法をヒントにして、足場なしで石を積み上げて作っていった

 これ、誰もが思いつけたけど、誰も実践しようとは思わなかった設計方法。それをやってのけたクーポラの設計の逸話が「コロンブスの卵」の原案になったといわれている。

◎レオナルド・ダ・ヴィンチ作『モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)』

レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)』

 レオナルド・ダ・ヴィンチはひと言でいうと、もう「ルネサンスルネサンスしてる人」。とにかく、すんごい左脳型で現実主義者。「自分でやってみて、目で確認したもの」しか信じない。それでいて好奇心旺盛だったから、もう大変。画家だけでなく、解剖学者、数学者、飛行機の設計士、動物医学者、植物学者、気象学者、地質学者などなど、とにかく「見えないものを解明してやろう」という思いから、とんでもないマルチタレントっぷりを発揮した。

 よって、彼が描く「天使の羽」は鳥類のソレだ。「飛行する生物=鳥」なので、天使といえども羽は鳥なのである。ちなみに飛行機を作る際も、鳥みたいに羽ばたくタイプのものを設計している。

 そんな彼の現実主義的な考えが詰まったのが名画『モナ・リザ』モデルであるジョコンダの顔に注目してみると「輪郭線」がないんですよ。同時期の他者の作品を見ると、どれも輪郭は黒く縁どられているが、モナ・リザにはない。彼は、指でなぞって輪郭をぼかす「スフマート」という手法を発明して輪郭線を消した。

 その理由をダ・ヴィンチに聞いたら「だって、人の輪郭って黒くないもん」と、あっさりした回答が来るだろう。そりゃそうだ。デーモン閣下ですら白い。

 また、背景にも注目。遠くなるにしたがって山が青みがかり、霞(かす)んでいくのがわかるはずだ。これは、ダ・ヴィンチが発見した「空気遠近法」という手法である。あらゆるものを細かく観察していたダ・ヴィンチならではの気づきといえる。

◎マザッチョ作『楽園追放』

マザッチョ『楽園追放』※左が修復前、右が修復後

 これは、「アダムとイヴが禁断の果実を食べて楽園を追放される……」という名シーンを描いた作品だ。もうなんかパッと見でわかると思うが、この圧倒的「やってもうた感」が、ルネサンスを象徴している。リンゴ食べて「恥」の概念を知って、身体を隠すさまは、めちゃめちゃ感情表現が豊かで、リアリティーがある。

◎ロベルト・カンピン作「受胎告知」

                  ロベルト・カンピン『受胎告知』

 ロベルト・カンピンはイタリアでなくフランドル(現在のベルギー)の画家だ。イタリアから始まったルネサンスは、このように周りの地域にまで伝播(でんぱ)していき、長い歳月をかけて、ヨーロッパじゅうが現実的、合理的なモノの考え方になっていく。

『受胎告知』は天使・ガブリエルがマリアのところにきて「あなた、処女ながら不思議な力でキリストを身ごもりましたよー!」と告げる名シーンだ。数々の画家が描いている人気のテーマである。

 カンピンの『受胎告知』が面白いのは、この「ザ・実家」という感じ。普通の中流階級の家が舞台。かつ、マリアが「実家に帰省して雑誌読んでる大学生の娘」のような感じで描かれている。ガブリエルが「あの~、聞いてます?」みたいな。マリアは「ちょっと待って。来週のコーデ考えてるから」みたいな。舞台にリアリティーがあると、逆にシュールになる。

「現実主義」「写実主義」という新たな表現

 さて、こんな感じでルネサンスは世間と芸術家の思考を「神中心から人間中心」「空想中心から現実中心」にガラっと変えてしまったわけですな。これを契機に、宗教画のほかにも「風景画」「静物画」などの「現実を写実した絵」を描く画家も登場する(価値を認められるのは、まだまだ先だが……)。

 西洋美術史に着目してみると「そのとき作品を通して作者が伝えようとしていたこと」や「時代背景」が明確にわかるようになるはずだ。すると作品の見え方が、今までとはまた変わってくる。

 ただし、最後に「これだけは言いたい」ってのは、「アートのとらえ方は人それぞれ」ということ。歴史が「正」というわけではなく「自分がどう見えたか」を正としていいはずです。だから、あくまで歴史はひとつのスパイスとして、自分の感受性を頼りに、美術館での体験を楽しんでいただければうれしい

(文/ジュウ・ショ)