母親と自閉症の息子が、社会の中で生きていくさまを温かく誠実に描くヒューマンストーリー『梅切らぬバカ』(シネスイッチ銀座ほか全国公開中/配給:ハピネットファントム・スタジオ)。加賀まりこ(77)は占い師をしながら息子の面倒を見る母・山田珠子を。塚地武雅(49)は、“ちゅうさん”の愛称で呼ばれる自閉症の息子・忠男を演じる。今回が初共演となった2人に、お互いの印象から、知られざる意外な一面まで聞いてみました。
全部見透かされていたんです(塚地)
──共演してみて、お互いどんな印象を持ちましたか。
加賀 もう見たまんまの明るくていい人。どこか傷がないかと思って見てみたくなる。親子役だったからそういう目では見てなかったけど。
塚地 アハハハ。
加賀 親しい友達に天海祐希さんがいるんですが、塚地さんとも共演したことがあるので、どんな人って聞いたんですけど“どこまでもいい人”って。どこかブラックなところがないかなと思うんですが、いまのところないみたいです。
塚地 僕はお会いするまでは、歯に衣(きぬ)着せぬ話し方をされる方なので、怖いんじゃないかと思っていました(笑)。
加賀 私はどちらかというと警戒されるほうだから、あなたがうらやましいわよ(笑)。
塚地 あと覚えているのは、最初の本読みに行く前に、自閉症の方たちの生活を見させていただいたんです。いろいろと勉強になったんですが、同時に本当に僕がこの役をできるんだろうかと急に不安になって。それを見透かされないようにテンション上げぎみで本読みに行ったんですが、無理しているのを加賀さんに全部見透かされていたんです(笑)。
加賀 わかるわよ。難しい役ですし、実際にお会いしてきて、どう演じたらいいんだろうってなると思う。
塚地 見透かされた恥ずかしさはありましたが、本読みをして思ったのがちゅうさんは自然体で無理せずに、加賀さん演じる珠子に身を委ねればいいんだって思えて。最初、加賀さんに珠子というお母さん像を見せていただいたのは大きかったですし、そこから楽になったなと思いました。
2人の“母親との懐かしき思い出”
──母子の物語ということで、おふたりは母親とどんな思い出があります?
加賀 私はかまってもらった覚えがあまりないです。さっさとおむつ離れをしたりと、赤ん坊のころから楽な子だったらしいんです。小学生になってもひとりで電車通学して。タクシーの初乗りが70円だったから、いつも100円握って、ここで70円から上がるから降りようとか、この古本屋のおじさんは長く立ち読みしても怒らないとか(笑)。母に教わったわけじゃなく、なんでも自分で開拓して覚えてたの。
塚地 そうなんですね。
加賀 いまでもそう、自分で開拓するのが好き。だから、母が教えてくれたのは世の中は怖くないってことかな。何でも怖がるな、臆するなってね。
塚地 うちは父親が厳格だったので、それについていっている母だったから、この世界に入るときは大反対でした。父親は激怒するし母は泣いて“やめてくれ”みたいな。
加賀 たいがいのご家庭はそうよね。
塚地 勘当みたいな形で東京に出てきたんですが、少しずつテレビに出るようになると親の考え方も変わってきました。父が他界していま母は1人で住んでいて、近所に住む僕の弟家族の家をリフォームするから一緒に住んでという話をしています。でも、父が建てた家だから最後まで守るって言うんですよ。やっぱり母は強いっすね(笑)。それを言われたら無理に引っ越せとも言えないですし、夫婦の絆の強さを感じました。