夢は『ぷよぷよランド』だった

 上場を狙っていたそうで、

「そのためには自社株を増やさなきゃいけないから、現金で株をどんどん買わなきゃいけない。自分の給料は普通の人の年収並み。とにかく株と人を増やすことばかり考えていた

 とにもかくにも上場を信じて突っ走っていたけれど、当然ながらそれには下心も夢もでっかくあった。

上場したら、ひょっとすると数百億円もの収入があるかもしれないから、それを財源にして、ディズニーとか大好きだから『ぷよぷよランド』を作ろうかなと思って。図面も作ってたんですけどね。そのためにも人が必要だから。それで人を雇い過ぎちゃったのが……。従業員数はその頃マックスで400人ですよね。反省してる

 しかしその後、ヒット作に恵まれず給料を払えなくなって1998年に倒産。負債総額90億円!!

上場しようと思わなければたぶん、転ばなかった気がしますね。社員をあそこまで増やすこともなければ投資することもなかったと思う。もともとそのつもりはなかったんですよ。でも、ある超有名ゲームメーカーの社長が、“おまえも(上場)したら?”なんて言ってくるから、“じゃ、やってみようかな”ということですね

『ぷよぷよランド』を作りたかったと語る仁井谷氏 撮影/伊藤和幸

カリスマ経営者ならではの悩み

 敗因を分析するなか、こんな発言も。

いちばんのネックは、広島というのがネックですよね。今思えば。井の中の蛙(かわず)で周りに相談役がいないわけですよ。やっぱり首都とは違いますね

──コンパイルの本社は東京ではなく仁井谷さんの地元・広島にあったわけですか。逆に言えば地方でありながら大ヒットを出した社長のアイデアや熱意はスゴいってことですよね。

僕しか出せないんで。それじゃあかんと。だから、結局は社員から出るアイデアを、10個のうち1個か2個を採用してやるというふうに持っていかなきゃいけないんだけど、そこに至らない、その前に走らなきゃいけないっていうのがあって、自分がどんどんアイデアを出してどんどん回ってたっていう……」

  カリスマ経営者ならではの悩みの典型かも?

「ゲーム会社なんで、月々きっちりお金が入ってくるわけじゃないんですよ。ソフトを出してドカーンと収入があって、それで食いつなぐ。そのソフトを出してドカーンのタイミングが後ろにズレてくると、お金はなくなっていく。

 だから、本来ならお金をプールして、人を雇うために充てないといけなかった。それなのに当時は走っていたから、そのドカンというお金を次の作品の開発費とか宣伝費とか、ほかへの投資に使っちゃってね。車輪が回転している時はいいけど、何かでつまずいたり止まると、もう。400人分の人件費であっという間にパンクした

 コンパイルの失敗とともに仁井谷さんも自己破産。『ぷよぷよ』の権利も売る羽目に。ちなみに『ぷよぷよ』ヒット前の39歳の時に1度結婚するも、1年以内に離婚している。完全に裸一貫となった氏はその後、転々と……。

裸一貫となった仁井谷氏の大逆転劇はあるのか 撮影/伊藤和幸

※後編:『『ぷよぷよ』の成功から裸一貫となり『にょきにょき』でまた借金、ゲーム制作者・仁井谷さんが目指す大逆転劇』

(取材・文/相良洋一)

《PROFILE》
仁井谷正充(にいたに・まさみつ)◎1950年2月10日生まれ。広島県出身。1982年に株式会社コンパイルを創業。『ぷよぷよ』や『魔導物語』といったヒット作を出し年商70億円を記録するも、拡大路線がいきすぎて1998年に同社は倒産。本人も自己破産をする。職業を転々とした後、2016年にコンパイル〇株式会社を立ち上げ、新作ゲーム『にょきにょき』をリリース。復活を狙う。

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