続・リアルな野球描写を支えた6つの革命
〇革命4:試合を1回から9回まで描いた
水島さん以前の野球漫画の試合シーンは、いわばプロ野球ニュースの「試合ダイジェスト」のようなもので、ハイライトシーンのみが描かれていました。
しかし水島さんは、試合によっては、1回から9回まですべて描いたのです。これによって、読者はまるで「野球漫画」ではなく、「野球の試合」を見ているような感覚に陥りました。水島さんは、野球漫画を「野球観戦漫画」にまで進化させていたのです。
〇革命5:キャッキャーを主人公にした
水島さんの代表作『ドカベン』の主人公・山田太郎のポジションはキャッチャーです。
それまでの野球漫画の主人公はピッチャーというのがお決まりでしたから、これはもう大革命でした。水島さんは、実は試合を動かしているキャッチャーを主人公にすえることで、野球における、バッターを抑えるための配球の面白さまで、野球漫画の幅を広げたのです。
〇革命6:パ・リーグを舞台にした
1973年に連載がはじまった『あぶさん』は、主人公がパ・リーグの南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に入団するという画期的な作品でした。
今でこそ、スター選手がたくさんいて大人気のパ・リーグですが、その当時は、プロ野球ニュースでも試合結果のみしか流されなかったほどの不人気。「人気のセ、実力のパ」などという言葉もあったほどでした。ホークスファンだった水島さんは、そんな時代にあえてパ・リーグを舞台に漫画を描いたのです。
以上、水島新司さんの「野球漫画の常識を破った6つの革命」、いかがでしたか。
水島さんが野球漫画にもたらした革命は、細かく見れば無数にあるのですが、大きなところをお伝えしました。
「野球を通して、すべてのことを描くことができる。だから野球漫画以外は描かないと決めた」とおっしゃっていた水島さん。
この6つの野球漫画革命を見ると、いかに野球というスポーツを愛し、そして、野球の持つ魅力を信じていたかがわかるような気がします。
野球ファンの1人として、たくさんの傑作野球漫画を残してくださった水島先生のご冥福を祈りたいと思います。
合掌。
(文/西沢泰生)