夢見る力というのが一番必要な時代だと思う
──ダブル主演を務めるキムラ緑子さんは渡辺さんにとってどんな存在ですか?
「一緒にやれなかったこの2年間も、松竹さんの舞台を2本やらせていただきました。有頂天シリーズを緑子さんと3回やらせていただいたので、 “緑子ちゃんならどうするだろう?”とつい考えますね。実際はサバサバした方ですが、演技をすると色っぽい方ですよね。
有頂天シリーズではずっとコンビを組んでやらせていただいて、ケンカしたり助言し合ったり、当たり前のようにお芝居をやってきたので、改めて存在が大きく見えてきましたね。出演されている舞台を拝見して、役者さんとして一皮も二皮もむけていく姿を観客として体験させていただきましたし。
私もコロナ禍で6本の舞台を命がけで、身体を張ってやってきたこの2年間だったので、得たものを今回の舞台で全部惜しみなく出したいと思っています。たぶん緑子ちゃんも、この2年間の中でのいろいろな思いをぶつけてくれるんじゃないかと、すごく楽しみにしています」
──今作で4作目となる有頂天シリーズは、渡辺さんにとってどんな意味を持つ作品なのでしょうか?
「日本には昔から、すごい劇作家が数多くいるんですね。有頂天シリーズの第1作『有頂天旅館』の北條秀司さんの戯曲もそうですが、素晴らしいものがたくさんあって。それが再演されないまま眠っているんです。戯曲というのは小説とかと違って、誰かが演じてくれないと生きないので、眠ったままだと死んだも同然で。演じられることで初めて息を吹き返す。古典の戯曲の普遍的な力に、現代の劇作家が時代に合わせて味つけをして、コメディとしてよみがえらせたいという思いですね。
今、世の中には笑いが必要というか。格差社会になってきて、富める者と貧しい者の差が昔よりも広がっていて。そこには演劇の力、夢見る力というのが一番必要な時代だと思うわけです。上から目線じゃなくて、同じ目線で見せていく演劇が。どんな悲劇であろうと、どんな運命を背負った人物でも、夢の中みたいに雲の上に突き出るようなハイテンションな有頂天の状況を見せて楽しんでいただく。それが有頂天シリーズだと私はとらえています」