両親からの手紙、段ボール3箱分に詰まった愛情

──この2年間、コロナ禍で人と人が実際に出会うことが難しい状況でした。この作品は手紙がキーワードになっていて、文字で人に心を伝えるという話だと思います。文字で伝えることの意味について、感じていることがありましたら教えてください。

SNSの時代になって、文字をより使うようになったんですね。ところがそれが本当に恐ろしくて。飲み会に行ってその場で言い争えばいいようなことを、酔っぱらってついつい書いて投稿しちゃって、それが炎上して人生を変えてしまったりする時代じゃないですか。でも、手紙の場合は、まず届くまでには3日、4日かかる。書いてから出そうか出すまいかでもちょっと時間がかかりますよね。そして、すごく吟味して選んだ言葉を書くことができるっていうのが、手紙の一番のよさだなとつくづく思うようになりました。このコロナ禍、いろいろなやりとりで、ものすごく文章を書きましたね。そこで、手書き文字のよさを改めて感じました。

 手紙といえば……。私の両親は二人とも今は介護施設にいて、認知症なんですけど。私が山形から上京してきた年から、両親が送ってくれたハガキと手紙が、段ボール3箱くらいあるんですよ。忙しくて封を切ってないものもあって、もう本当に親不孝だなと思うんですけど、実はそれを今、改めて読み返しているんです。私が施設から帰ると号泣する、赤ちゃんみたいになってしまった母親がくれた手紙。それを読み返すと、やっぱり泣けてきますね。

 44年前に出してくれた封書を開けてみたら、中に5000円入っていたんですよ。手紙には“とりあえず手持ちの5000円だけ入れました”ってことと、母の日に贈った“カーネーションが届きました”というお礼が書いてあって。そういう手紙が、段ボール3箱。読んでも読んでも終わらない、両親の私に対する愛情で。それに対して、2~3通くらいしか返事を出していない自分。死ぬ気で舞台をずっと続けてきて、親の手紙を読む暇もないくらいに没頭して67歳の今日まで来たってことと、その手紙と、今向き合っている最中です

渡辺えりさん 撮影/伊藤和幸

──これまでの演劇人生で、大切にされてこられたポリシーはどんなことでしょうか?

毎回、新鮮に初めてやるようにしたいということは、心がけています。芝居を作ったり向き合うときに、この前の延長だとか思わずに、新しいものとして対峙(たいじ)するんだってことは、いつも大事にしてきたと思いますね。芝居の戯曲を書くのでも演出するのでも、そこに以前の体験とかが入っていくことは、もちろんいいことだと思うんですけども、やっぱり毎回、気持ちを込める。気持ちを入れて、ひとつずつやるっていうのは、とても疲れる作業ではありますが、それはこの仕事を始めてから、ずっと心がけてやっていることだと思います

第2回《渡辺えり、離婚や事務所独立で“本当にひとり”になってからの自分を支えているもの》はこちら

(取材・文/井ノ口裕子)

《PROFILE》
わたなべ・えり 1955年1月5日、山形県出身。1978年に劇団2〇〇(その後劇団3〇〇に改名)を結成。小劇場ブームをけん引する。現在は「オフィス3〇〇」主宰。作・演出・出演の3役を担い、1983年『ゲゲゲのげ~逢魔が時に揺れるブランコ』で岸田國士戯曲賞、1987年『瞼の母―まだ見ぬ海からの手紙』で紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞するなど、多くの話題作を発表。2004年『今昔桃太郎』、2009年『新版 舌切雀』では歌舞伎の作・演出も手がけた。舞台のみならず、ドラマ、映画、執筆活動など、各分野で活躍。近年、歌手活動にも精力的に取り組んでいる。2019年より日本劇作家協会会長。2021年4月には個人事務所を立ち上げ再スタートを切った。

●公演情報
《喜劇名作劇場》恋ぶみ屋一葉『有頂天作家』
作・演出:齋藤雅文
出演:渡辺えり キムラ緑子/大和田美帆 影山拓也(IMPACTors/ジャニーズJr.)春本由香 瀬戸摩純 長谷川純 宇梶剛士/渡辺 徹 ほか
日程・会場:【京都公演】2022年1月15日(土)~28日(金)南座 ※公演終了
【東京公演】2月1日(火)~15日(火)新橋演舞場
公演ホームページ https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo_202202/
チケットに関するお問い合わせ先/チケットホン松竹 0570-000-489