過激すぎた内容ゆえに……

 しかし、作者と編集部が、「このままではいけない」と意識することになったきっかけがありました。

 それは、読者に対して、「あなたの恨みを晴らします」といった企画を軽い気持ちで行った際、子どもたちから、深刻な「いじめの悩み」が多数、寄せられたことだったといいます。

 作品の世界よりも、現実世界のいじめの方が凶悪化し、深刻な社会問題になっていたのです。

 また、連載当時は、世の中に陰惨な事件が少なくて、「漫画の世界の話」と、それほど気にならなかった魔太郎の仕返しも、今ではとても描けないような過激なもの(ブルドーザーを使ったり、呪い殺したり……)が多数ありました。

 そんなことから、仕返しの方法は少しずつソフトになり、ストーリーも、個性的なサブキャラクターを登場させるなどして、多様化させていったのです。

 ちなみに、連載当初の過激な仕返しの数々は、最初に秋田書店刊としてコミックスに収録されたときは、連載時と同じ内容でした。

 しかし、のちに発刊された全集では、20話以上を未収録にし、30話以上を大幅に描き直して収録しています。

 藤子不二雄(A)という大御所の作品であり、人気もあったにも関わらず、この作品がテレビアニメ化できなかった理由。わかっていただけましたでしょうか。

 いや、実際には、のちに藤子不二雄(A)先生のもとに、何度かアニメ化の企画が持ち込まれたといいます。

 しかし、当の藤子先生が、それを許さなかったのです。

 いじめに関しては、相方の藤子・F・不二雄先生も、『ドラえもん』に出てくるジャイアンの妹に、ジャイ子というあり得ない名前をつけたことについて、「もし、ジャイアンの妹に普通の名前をつけてしまったら、同じ名前の女の子がいじめられてしまうかもしれないから」とおっしゃっていましたね。

 おふたりとも、自分の作品が「いじめのきっかけ」になることは、とても耐えられなかったに違いありません。

 蛇足ですが、連載当時、小学生だった私は、この『魔太郎がくる!!』が大好きでした。

 好きなあまり、ノートに鉛筆で『死太郎が行く!!』というタイトルの漫画を描いて、クラスメイトに読ませていました。

 偉大な先生の訃報を受けて、そんな懐かしいことを思い出しました……。

 合掌。

(文/西沢泰生)