初めての作品でまさかの作家デビュー

──そこからどのように作家を目指したのですか?

「仕事関係で出版社に知り合いもいるし、なんとかなるかなという期待もありました。ただ文学賞などを獲れば賞金がもらえるので、働きながらそちらを目指すことにしました」

──最初に書いたのが染井為人名義のデビュー作となる『悪い夏』(KADOKAWA、2017年)ですか?

そうです。書くのにトータルで2年ほどかかりました。応募した横溝正史ミステリ大賞で賞を獲ることができ、デビューにつながりました

横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した『悪い夏』※記事内の写真をクリックするとAmazonの紹介ページにジャンプします

──最初に書いた作品でデビューしたんですね。

「初めての作品でデビューできましたが、本当に狭き門だとは思います。誰かに書き方を教わったわけではないものの、プロデューサー時代に短いものですが、ショートコントの構成を考えた経験はありました。またそれまでにいろいろな職業を経験し、さまざまな人と接したことで、出来事を俯瞰(ふかん)で見るクセがあったのはいい影響だったのかもしれません。

 あと直接関係はありませんが、マネージャー時代に仕事で沖縄に行ったんです。一緒に行った当時のモデルで今は女優として活躍している清野菜名さんが、どうしても『沖縄の父』という人に占ってもらいたいと言うので、仕方がないので付いていくことに。

 彼女は“芸能界に向いていないけれど、19歳に一度だけチャンスがあるから、そこにすべてを賭けろ。それでも無理なら芸能界を辞めなさい”と言われていました。

 その時に私は、“マネージャーの仕事は向いていないので、すぐに辞めてクリエイティブな仕事をしろ”と言われたんです。占ってもらった後はふたりで、失礼な占い師だって怒っていました(笑)。

 でも何年かたってみると彼女は19歳の頃に出演した映画がきっかけでブレイクし、今も女優として活躍しています。そして私は作家になっていて、結局当たっていたんだなと思っています

染井為人さん 撮影/山田智絵

──今でも当時のモデルさんたちとは会っているのですか?

「たまに会うことがあります。当時あんなに子どもだったのに、今ではみんなすっかり大人になっていて驚きますね。困ったことや相談事があると、連絡してきます」

──今後また、ご自身の作品が映像化されるときに出演してくれたらうれしいですね。

「いやいや、それは恥ずかしいので遠慮したいです(笑)」

  ◇   ◇   ◇  

 作家になりたいと思い何度挑戦してもかなわない人も多い中、夢だったわけではなく、なりゆきでなったという驚きの事実が発覚しました。今でもできることならサッカー選手になりたいと話す染井為人さん。次回は、作家になってからの話を、詳しく聞いていきます。

*インタビュー第2弾→亀梨和也さん主演ドラマ『正体』の原作者・染井為人さんが明かす、“物語を生む原動力”と“将来への本音”

(取材・文/酒井明子)

《PROFILE》
染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台などのプロデューサーを務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し小説家デビュー。『正体』(光文社)が、読書メーター注目本ランキング1位を獲得し、WOWOWの連続ドラマで映像化された。他の著書に『正義の申し子』『震える天秤』(ともにKADOKAWA)『海神』(光文社)などがある。