「ステルスオタク時代」を経て「物欲大爆発時代」に
──いつごろまで周りに言えなかったんですか?
高校卒業まで隠してましたね。
でも、大学に入ってからは「もう、隠さんとこう」と。その時期からだんだんオタクが受け入れられ始めたんですよね。それで「私はセーラームーンが好きや!」と高らかに宣言していました(笑)。
──あぁ私も同世代なので、すごくすごく分かります。2000年代後半くらいから、だんだん「オタクであること」が許され始めた、という雰囲気を感じましたよね。
そうですよね。それで中高6年間の“我慢”が大爆発しまして……。バイトで稼いだお金をほぼ使って、毎日のように『まんだらけ』(マンガ本やアニメグッズなどを販売する店舗)でグッズを買い漁っていました(笑)。しかも整理もしないので、自分の部屋が段ボールだらけでした(笑)。周りにセーラームーンオタクもいなかったので、ひたすら1人で眺めてニヤニヤして……。
──そのころからグッズが増え始めたんですね。
はい。それから今日まで、グッズをひたすら集めています。社会人になってからはコスプレをしたり、Twitter上でセーラームーンのグッズを交換するようにもなりました。ちょうどセーラームーン20周年とか、25周年とかでグッズが大量に発売されたこともあって、セーラームーンオタク界隈で「推しのグッズを交換する」っていう文化があったんですよ。
セーラームーンがいたから苦境を乗り越えられた
──なるほど。セーラームーンのグッズを集めるっていうのは、単純に「オタク精神」というか……。「好きなものに囲まれたい」っていう気持ちからなんですか?
そうですね。もちろん見ているだけで「あぁ、可愛い!」ってなるので、もう幸せなんですけれど。つらいことがあったときに、引き出しを開けて眺めていたら安心できる、という気持ちもあります。“心の栄養剤”ですね。
──「心の栄養剤」ですか。
はい。私、もともとちょっとネガティブな部分があったんです。たぶん、みんなにセーラームーンを隠していた時期くらいから芽生えたと思うんですよね。「表に言えない」っていう“引け目”があることで、ちょっと自己評価を下げてしまったのかもしれないです。
それで「私は誰かにとって必要なんかな?」って、つい自分を否定したくなってしまうこともあって……。そういったときにグッズを眺めていると、セーラー戦士たちのことを思い出して、勇気づけられるんです。
──それは何か特定のストーリーを思い出して「よし、私も頑張ろう」と思えるという感じなのでしょうか。
そうですね。セーラームーンは名話ぞろいなので、いろんな“回”から元気をもらえるんですけど、特に思い出すのは、コミックス8巻です。敵組織、デッド・ムーンの女王・ネヘレニアを、うさぎとまもちゃん(タキシード仮面)が協力して倒すシーンですね。
戦いに勝ったあとに、まもちゃんが「戦いが終わっても胸が熱い」って不思議がるんです。それにうさぎが返した「誰でもみんな胸の中に星をもっているのよ。そして胸の奥が熱いのは星が輝いている印なの」って言葉が、もうたまらなくて……。
──「誰でもみんな胸の中に星をもっている」って、すてきな言葉ですね。
本当にいいセリフですよね。まもちゃんは戦闘能力ではセーラームーンより劣っているんです。でも「大切な人や場所を守りたい」っていう強い気持ちを持っていて……。
「星」は情熱とか使命を表しているんだと思っています。私も心が弱くなったときはこのシーンを思い出して「自分も何かの使命をもって生かされているんだ」「よし、闇や暗黒の心に負けないように、星を輝かせて頑張ろう」って。
──うさぎちゃんがあまりにカッコよすぎる……。セーラームーンは本当に「生き方の教科書」ですよね。
そう。本当にこの言葉がなかったら、たぶんどこかで心が折れていましたね。
──今回、人生を通してセーラームーンとの関わりを聞かせていただいたんですけど、これだけコンテンツが世にあふれているなか、セーラームーンを推し続けている理由が分かった気がします。いつの間にかセーラー戦士の考え方がちびびさんに染みついている、というか、もう「ちびびさんがセーラームーンになっている」と思いました。
これも、本当にいろいろな偶然が重なった結果というか……。セーラームーン用語でいうと「ミラクルロマンス」なんです。親がセーラームーンを見させてくれて、セーラームーンにハマっていると暴露したときも周りの友人が認めてくれて、今に至ると思います。
だからセーラームーンがすばらしいのはもちろんなんですけど、私の場合は「周りのみんなのおかげで人生を豊かにしてもらえたなぁ」って思いますね。
──「みんなのおかげ」と思えるのが、真に豊かである証拠ですよね。すてきな考えをお持ちです。
いえいえ、そんな私なんて。そんな………ごちそうさまです(笑)。
──(笑)。現在、ちびびさんはTwitterでセーラームーングッズのコレクションなどを見せてくださっています。こちらの活動は今後も続けていくんでしょうか?
そうですね。もちろん続けていきます。
今がいちばん「推し活」が楽しいんですよ。自分が学生時代のころは、好きでも交流しにくかったので(笑)。昨今は「推しがいること」がすばらしいと思える世の中になっていて、大声で好きなものへの愛を語れる。フォロワーさんとの交流も楽しいですし、私の投稿がきっかけでセーラームーンにハマる方がいらっしゃったこともうれしいですね。
ちょうどアニメ放映から30周年で、セーラームーンオタク界隈的にも盛り上がっているので、もっと多くの方に“セーラームーン沼”につかっていただいて、コミュニティでワイワイ楽しめたらうれしいです。
ちびびさんはインタビュー中、ユーモアで場を和ませてくれたり、慎重に言葉を選んだりと、常に私を気遣ってくださった。率直に「また話したくなる方だ」と思った。彼女はセーラームーンから学んだ「優しさ」を、今や完全に自分のものにしているのである。
うさぎの周りにいつも人が集まるように、ちびびさんのツイートのリプ欄には、さまざまなセーラームーンオタクがニコニコしながら集まっている。それはもはや、セーラームーンのすばらしさ、というよりちびびさんの人間性によるものだ。
インタビューの中にも出てきたとおり、セーラームーンにはあらゆるキーワードが詰まっている。「可愛らしい衣装」「華麗な技」「戦う少女たちのたくましさ」「日常的なメンバーとの友情」「ロマンチックな恋愛」「寛大な母性」などなど、本当に幅広いメッセージが込められた作品だ。
このすべてが「人生」において大切な要素である。もしあなたがセーラームーンの世界観に少しでもグッときたのであれば、それがセーラームーンと同じ国に生まれたミラクルロマンスだ。だから、ここは素直になって“沼”に足を踏み入れてみることをおすすめする。その沼には、あなたの人生をより豊かにしてくれる魔法が詰まっているはずだ。
(取材・文/ジュウ・ショ)
毎日セーラームーンの写真を投稿する、ちびびさんのTwitterアカウント→@chibi_rabbit_