北野異人館の観光を終え、クソデカキャリーを引いて山を下りる彼女は、何を考えているのだろう。
3年前、Twitterでうつの状態が私と似ている東大女子がいることを知った。なんとなく幸せになれない感じに共感し、アイドル活動に誘った。私は薬により今は寛解したが、うつだったとき、このように楽しい旅行の最中でも、何の前触れもきっかけもなく暗雲が立ち込め、たちまち心が地獄に落ちてしまう瞬間があることを思い出す。ツイートを見ていると、彼女はたまに地獄に陥ってるようだ。落ちないだろうか。そんなことを考えながら山を下りた。
「わが子のような神戸牛」やスイーツたちに舌鼓
彼女の妹オススメのステーキ店に着いた。すぐに私たちの肉が、生の状態で運ばれてきた。目の前で焼いてくれるスタイル。2人分のグラム数をあわせた、ひとつの肉塊を焼いてくれる。同じ肉の塊をわけて食べるのは、昔の狩猟民族のようでよい。彼女はウェルダンが好きとのことで、私はミディアムレアが好みだが、彼女と近い気持ちになりたくて同じくウェルダンにした。
待っているあいだ、自分たちの肉を「可愛いね、愛しいね、わが子のようだね」とほめたたえた。ガーリックチップと肉の香りも「ビニール袋に入れて持ち帰りたいね」。箸で切れるくらい柔らかく、おいしい。「同じプレートで焼かれたもやしは、もはや肉に昇華している」とも話した。
食後のアイスコーヒーにストローが添えられていたが、彼女はグラスから直接飲んだ。「ストローがあったのに気づかず、豪快に飲んじゃった」「今、肉食べたあとだし、口がやんちゃになっているから仕方ない」と話した。
店を後にし、海側にある「フェリシモ チョコレート ミュージアム」まで下る。
大学時代はよく神戸に来ていたが、その当時はまだなかったこのミュージアム。入った瞬間、チョコレートの香りがした。カカオ豆にアロマが炊かれている。2人とも魅了されすぎて「これを甲子園の土のように、持って帰ろう」と提案してしまった。
「無数に展示されたチョコレートの中から合言葉が書いてあるチョコレートを見つけ出すとプレゼントがもらえる」とのことで血眼になって探したり、写真を撮ったりしてはしゃいだ。
大丸百貨店の勢力におののきながら、帰路へ
海の近くのカフェでケーキを食べたあと、今度は彼女の妹おすすめのクッキー屋さんをめざした。大丸百貨店の中にあるそうで、“金持ちそうなマダムのあとをつける”ことで大丸を目指した。狙いどおり大丸にたどり着いたはいいが、建物の4面が何かしらのブランドショップの入口になっており、庶民の私たちの侵入を阻んだ。途方に暮れていると、なんと私たちのいる建物の隣も、その隣の建物にも大丸と書いてあることに気づいた。「もはや神戸の街全体が大丸に飲み込まれてしまったのでは!?」と思い、さまよっていると、庶民の群衆が流れている建物があり、ついていくと目的のクッキー屋さんにたどり着くことができた。
帰りは、乗る電車の時間が違ったのでそこで自然に解散になり、各自の時間を楽しみ、帰路についた。
この旅行を通じて感じたこと。彼女とはコミュニケーションがスムーズで、嫌になることはない。チケット取得や予約も、どちらかに負担が偏ることなく自然に役割分担をし、お互い快適に過ごすことができる。少なくとも私は楽しかった。
この日は練習をしたわけでもなく、レコーディングをしたわけでもない。アイドル活動に生かせることはしていないが、そもそも私たちは楽しむためにアイドル活動をしているので、なんの問題もないのだ。むしろ、このかけがえのない時間を過ごすためにアイドル活動をしている説もある。一緒に遊んでくれた東大卒女子に感謝。