利用者の3割は地元以外。若い世代に支持される銭湯

──小杉湯の利用者は、地元の方が多いのですか?

土日は全体の3割が、電車か車で高円寺以外から来ているお客さんです。あとの6割は半径2キロぐらいの地元の方です。小杉湯から歩いて30分、自転車で10分圏内の方が多いです

──現在の利用者数はどれくらいですか?

「平日が400人で、土日で800人台ですね。土日は朝8時から深夜1時45分まで営業しているので、営業時間が長いのが影響しているのかもしれません。男女比は、男性6割、女性4割。小杉湯のお客さんは30代までが多いですね

──銭湯は年配の人が多いイメージでしたが、30代がメイン層なのですね。

「それは高円寺という土地柄もあると思います。銭湯のお客さんって、半径2キロのエリアにどんな世代が住んでいるのかが関係しているなと感じています。隣駅の中野に大学が増えたので、高円寺は若い人のひとり暮らしが増えた。それがこのエリアの特徴だと思います」

女湯と男湯をつなぐように描かれた雄大な富士山の絵も、癒やしの1つ 撮影/矢島泰輔

──若い世代が小杉湯に通うようになった理由をどう考えていますか?

理由はいろいろとあると思うのですが……。銭湯って、いわゆる『シェアリングエコノミー』(個人や企業が持つモノや場所、スキルなどの有形・無形資産を、インターネットを介して取引するサービスのこと)の一種なんです。それが若い世代のシェアの価値観に合っているのではないでしょうか。大切なのは半径2キロ、徒歩30分のエリアの中での日常で小さな幸せを感じられること。小杉湯では銭湯はそういう位置づけだと考えています」

──身近にある幸せを見つけるということですね。

「“人と人”というよりも、“場所と人”とのコミュニケーションであることが大きいと思います。銭湯って番台でお金を払った後は、セルフサービスなので小杉湯側との接点ってあまりないんです。でも番台では家の中で使うような“おやすみなさい”、“いってらっしゃい”というような言葉を使うようにしています。それだけで癒やされるって言う人もいるんですよ

──昔ながらのコミュニケーションが、銭湯にはあるのですね。

「ひとりで来られるってところが若者にとっても大きい。ひとりで来られる場所だけれど、その中で“サイレントコミュニケーション”(会話のないコミュニケーション)が成り立つ。そしてコミュニケーションが目的ではなくて、あくまでお風呂に入って気持ちいいっていうのが目的なんです。だから誰かとしゃべらなくてもいいけど、その土地の人を感じられる」

──ちょうどよい距離感なのですね。

番台でやりとりがある。目を合わせると、知っている顔の人がいる。シェアリングエコノミーの中で、そういうサイレントなコミュニケーションを選択できる。そのさじ加減が、若い世代に合っているのだと思います

──若者には数多くのレクリエーションがある中で、なぜ銭湯が選ばれていると思いますか?

小杉湯では銭湯の定義として“ケの日のハレ”というのを掲げています。日常の中にある小さな幸せに気づくっていう意味なんです。日常をケの日、非日常をハレの日とした時に、日常の中で機能的で不可欠であることが“ケの日のケ”。これが、インフラとして銭湯が存在していた頃の銭湯です。反対にスーパー銭湯は“ハレの日のケ”。これを余暇(レジャー)だとした時に、銭湯で過ごす時間はちょうど“ケの日のハレ”。“日常の中での幸せ”っていう定義が、小杉湯に当てはまるんです」

しゃべらなくても他者を感じられる銭湯。中距離な関係性とは

──若い子が銭湯に癒やしを求めるのはどうしてなのでしょうか。

小杉湯の若いスタッフたちを見ていると、物質には恵まれているのに、寂しいと感じている子が多い。だからこそ、ひとりでも来られて、緩やかに他者を感じられる“中距離な関係性”の銭湯が、自己受容につながっているように感じるんです

──銭湯での癒やしが、自己受容になるのですね。

今の若い子たちは、自己否定しちゃう子が多いと思います。SNSなどを見ているとどうしても他者と自分を比較してしまうので、それが自己否定につながりやすい。でも自己否定が強かった子が、銭湯でのコミュニケーションを通じてありのままの自分を受け入れられる、自己受容できるようになってくるんですよ」

──例えば、どのようなきっかけで自己受容できるようになりますか。

銭湯って緩やかに他者をおもんぱかったり、思いやることが大切な場所だったりします。他者に配慮しながら、自分のことも大切にしてほっと一息つける。そういう場所に来ることで、頑張った日も、頑張らなかった日も自分を受け入れられるようになっていくんです

──それが身近で見つけられるのが銭湯なのですね。

そうです。“救われた”と言う若い子も多いんです。半径2キロの幸せの大事さって、自己受容できることだと思うんですよ。日常の中で“小さな幸せ”を感じられるってことが、すごく大切になってきていると思います

『小杉湯』の三代目で代表の平松佑介さん 撮影/矢島泰輔