子どもにもある脱毛症状。大人とは異なる受け入れ方
美穂さんのように、脱毛症の患者たちは、心の面での悩みが深い。ASPJが2021年8月に行った、脱毛症患者を対象とした独自調査の結果によると、回答者276名のうち、「ホルモンバランスなどの変化で気持ちが落ち込むことがある」と回答した人が44.7%、さらには「具体的な方法は考えないが、漠然と死を願っている」と回答した人が20.3%と衝撃の高割合であった。
やはり、それほどまでに患者の皆さんが悩んでいるということがうかがえた。美穂さんのように自分自身を受け入れるのに時間がかかることは当然だし、いまだ自身の中で葛藤している人が多いのだろう。
脱毛症の患者は、大人だけではない。子どもにも症状はあると、ASPJ代表理事の土屋光子さんは話す。
「子どもの脱毛症患者さんもさまざまです。生まれながらにということもあれば、成長とともに脱毛していく例もあります。大人と違うのは、比較的幼い時期から症状があるため、髪がない自分のことを、受け入れている子どももいるということです」
このように髪がないことを生まれつきのごとく、自然に捉えている子どもが多いなかで、子どもの脱毛症については、発症している本人以外にも課題があると話す。
「本人は“ウィッグを被りたくない“と思っているけれど、親が自身の価値観や子どもを心配に思うあまり、親の意思で子どもにウィッグをすすめていることもあります」
実際にASPJに所属する親たちはどのように思っていたのだろうか? 小学6年生の娘さんを持つSさんはこのように話す。
「娘の脱毛が進むなかでスイミングに通っていた時、周りの人が娘の頭を見てる様子が、私にはかわいそうだと思えました。けれど、娘がさほど気にしていないことに気づいたんです。それからというもの、私は娘が過ごしやすい環境を作ること、彼女の自己肯定感を上げるためにポジティブに頑張ろうと思いましたね」
Sさんの娘さんは現在、ウィッグは本人が使いたい時に使用しているそうだ。
また、小学6年生の娘さんを持つFさんは、「自分自身の方が受け入れられてない」と話す。
「娘は、“もう慣れてるから”と言うのです。脱毛症を受け入れているのか? と聞いてみましたが、そしたら“受け入れてるよ。逆に、自分自身を受け入れていない人なんているの?”とサラッと言われて。答えにつまりました。人目を気にしているのは大人のほうなのかもしれません」
Hさんの娘さんもまた、現在ウィッグは使用せず、今ある髪を生かしてアレンジをしたりして、髪の少ない箇所をカバーしているそうだ。
思った以上に子どもは色眼鏡をかけることなく、透明な眼鏡でものを見て過ごしているのかもしれない。そして成長が進み、周囲の視線や価値観、社会的な出来事を知れば知るほど、その価値観や概念に苦しむのが大人なのかもしれないとも思う。
患者の心の深い悩みについてまでは広く認知されていない
円形脱毛症は自己免疫疾患の1つと言われ、美穂さんのようにストレスがトリガーになって発症することもあれば、子どもの患者のように生まれながらにして、あるいは幼い頃から環境や他症状による複合的な要因で発症をすることもある。そのため治療法も必ずこれという正攻法はなく、多種多様だという。
ASPJ代表理事の土屋さんは、「美穂さんのように、急に発症するという状況は誰にでもありえます。まだまだ病気の認知が低く、症状のことはもちろんですが、患者の心の深い悩みについてまで広く認知されるには至っていないと感じます。そのためにも、私たちはこれからも発信を続けていきたいですね」と語る。
ありのままの自分を受け入れるというのは、誰にとっても簡単なことではない。また、目に見える症状や、姿や形に違いには気づけるが、実は私たちの隣にいる人も、目に見えないところで悩んだり苦しんだりしているのかもしれない。私たちが気づいていないだけで。
誰もが“色眼鏡”を外して、“透明な眼鏡”で心を覗き見できるようになったら──知らない世界を、いつもよりほんの少しだけ慮る。そうなったらもっともっと生きやすく、優しい世界になるのかもしれない。
(取材・文/永見薫)
◇ ◇ ◇
●特定非営利活動法人 Alopecia Style Project Japan(ASPJ)
〒104-0061東京都中央区銀座一丁目22番11号銀座大竹ビジデンス2階
ホームページ:https://aspj.site/
Facebook:https://www.facebook.com/AlopeciaStyleProject/
Instagram:https://www.instagram.com/alopecia.style/
●インストラター美穂さんが発信するInstagram
https://www.instagram.com/morohoshimiho/
●インタビューに登場した方のSNS
脱毛症患者の母娘(Sさん、Fさん)が発信するInstagram
ririco:https://www.instagram.com/ririco1223/
a.ik.o:https://www.instagram.com/a.ik.o/