突然パニック障害に、そして障がい者手帳を取得

事業所をまわる兼子氏(左)。スタッフや利用者とのコミュニケーションを何より大切にしているという 写真/兼子氏提供

 うつから回復し、会社も拡大していくなど順調に進んでいるように思えたが、起業して6年目に事件が起きる。

「さらに事業を大きくすべく、VC(※1)が行う『インパクト投資』(※2)で1億円の資金調達を目指していたときのことです。7500万円を出資してくれるという企業が現れて、さらに、とある地方銀行のビジネスプランコンテストで評価されたことから9500万円の出資をしてもらえるチャンスもあって、どちらかを選ぶことになりました。金額が大きかったこと、そして地元の企業と連携をすることも大事だと感じたことから、後者の出資を受けることにしたのです

(※1 ベンチャーキャピタル。ハイリターンを狙ってアグレッシブに投資する投資会社のこと)
(※2 慈善活動と利益獲得の2つを目標とする投資手法。経済的利益の追求と同時に、貧困や飢餓、差別、環境破壊といった社会問題の解決を目指すとことろに特徴がある)

 資金を得られるめどがたったため事務所を借り、人員も増やして準備をしていたにもかかわらず、ある日その地方銀行は「融資は1000万円、出資は500万円までしかできない」と手のひらを返した。当然、すでに断ってしまった企業からの7500万円の出資も、今さら受けることはできなくなっていた。

「抗議や交渉を続けたものの、結果が覆ることはありませんでした。結局、資金が不足し、リストラせざるをえない事態となりました。事務所も解約し、大幅な経費削減も行いましたが、ぜんぜん足りなかった」

スタッフや利用者たちと。「絆を大事にしているから、リストラが本当につらかった」と兼子氏 写真/兼子氏提供

 リストラにひどく心を痛めながら、毎日のように資金繰りに奔走する中、運転中に突然、過呼吸を起こしてしまう。

「初めてのことだったので何が起きたのかわからなくて。意識が遠のく中、たまたま見つけたコンビニに慌てて車を停めて駆け込んだら、店員さんから“過呼吸よ、それ”と言われ……。病院に行くと、いきなり発症したパニック障害によるものでした」

 再び心療内科に通うことになり、そこで医師からの勧めもあって、障がい者手帳を取得することを決意した。障がい者手帳というと、どうしてもネガティブなイメージが先行するためか、取得したがらない人が多いのも現状だ。しかし、兼子氏は「取れるなら取ったほうがいいと思う」と話す。

「障がい者手帳を持っていることでマイナスに働くことはないと考えています。持っていないと就労支援施設に通えないですし、持っていることで助けられることも多いんです。さまざまな割引が効くというメリットもありますし、一般企業の障がい者雇用枠で働けるチャンスも増えます。また、障がい者手帳を持っていることで自分の状態を認めることにもつながり、障がいを受け入れて強く生きていける、という考え方もできるのではないでしょうか