「障がい者社長」としてミンナに恩返しがしたい

兼子氏のまぶしい笑顔にこちらもパワーをいただけた 撮影/渡邉智裕

 一時は資金調達で苦労し、障がいも抱えたものの、出資してくれる企業が見つかり、現在は順調に資金調達が実現できている。

最近、力を入れているのは『ミンナのシゴト』という、障がい者就労支援事業所に企業から受注した仕事を発注するマッチングサービス事業です。就労支援事業所は国からお金をもらう補助金ビジネスでもあるのですが、それに便乗する形だけのA型事業所が増えすぎてしまった背景もあり、あるときから国が法律を厳しくし、十分な売り上げを作ることができない事業所は閉業せざるを得なくなってしまいました。

 事業所がなくなってしまったら、障がいを持った方々の仕事がなくなってしまいますし、何より、一緒に働く仲間が減ってしまいます。これは頑張りどきだと

 福祉関連の仕事に就く人の多くは営業が苦手、つまり、就労支援事業所で請け負うための仕事を取ってくることが苦手だという。一方で、兼子氏は営業を得意とする。

これは自分の出番だ! と思って。自らどんどん営業をかけて企業からの仕事を受注し、それを全国のA型事業所にマッチングしています。仕事内容は例えば、名刺アプリへの入力作業や、自動運転・腹腔鏡手術などに使われるAI(人工知能)のアノテーション(機械学習のモデルとして正解のデータやラベルを作成すること)です。

 AIってすべてが自動で行われるイメージがあるかもしれませんが、実は、最初は基本的に人力なんです。例えば、自動運転なら膨大なドライブレコーダーのデータをもとに、“これは人”、“これは車”、“これは信号”と映像とひもづける作業を人間がやっています。

 また、名刺アプリには読み込んだ画像から名前や部署名をオペレーターが手打ちし、アプリに反映させていく仕組みがある。こうした作業を請け負う人材が必要とされているんですが、障がいを持った人の中には、これらの作業が得意な人もいます名刺の入力作業は、私がやると4時間で400枚くらいが限界でした。でも、うちのスタッフは同じ時間で4000枚も入力ができる。すごい子だと9000枚、入力できる子もいるんです。対人関係が苦手で言葉はうまく話せなくても書くのが得意で、ライティングの才能があるスタッフもいて。そういう障がいを持った人は、たとえ平均的な仕事はできなくても、突出した能力がある人が多いんです。

 障がい者=かわいそうな人、守らないといけない人……じゃなくて、能力のある人材だということを、これからもっと伝えていきたいですね

スタッフと利用者らに囲まれてうれしそう。「ミンナのミカタぐるーぷ」の発展をお祈りします! 写真/兼子氏提供
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 自身も障がい者手帳を持つ身であるからこそ、気持ちがわかる部分もある。現在は通院しつつ、仕事の合間にプールでの運動や銭湯でのリラックス時間、朝は景色のいい場所でコーヒーを飲む時間を確保するなど体調と向き合いながら、社長業もこなしている兼子氏。「僕は障がいを持った彼らに出会わなかったら死んでいたかもしれない。彼らに生かされているんです。だから、これからの人生は彼らのために使いたい」という言葉が印象的だった。

 兼子氏はこれからも、「日本から障がい者という言葉と概念をなくす」というミッションを支えに、うつにも障がいにも負けることなくパワフルに突き進んでいく。

(取材・文/松本果歩)
 


《INFORMATION》
兼子文晴(かねこ・ふみはる) ◎1979年生まれ、東京都大田区出身。国士舘中・高で柔道部に所属。国士舘大卒業後、建材大手の会社に入社。木材卸・加工販売会社を経て2013年、就労継続支援A型事業所を運営する「ミンナのミライ」を設立。その後、B型事業所を営む「ミンナのナカマ」も立ち上げ、2018年5月には「ミンナのシゴト」をスタート。現在はこれらの事業を束ねる「ミンナのミカタぐるーぷ」の代表を勤め、障がい者に寄り添った就労支援を行なっている。