日本全国のジェットコースターをすべて制覇し、海外を合わせて470機も乗ったうえに、名古屋市大須に「ジェットコースター専門店」まで作ってしまったジェットコースター男さん。日本全国のマニアが彼のグッズを身にまとってジェットコースターに乗るほど、業界では有名なオタクだ。

 インタビュー第1弾では、彼が「ジェットコースターマニアになった理由」を幼少期から振り返っていただいた(記事:日本唯一の“ジェットコースター専門店”店主が語る、「もともと苦手だった」のに国内機すべてを制覇したワケ)。第2弾は「レベルの違うオタクだからこそわかる、ジェットコースターの魅力」についてインタビュー。そこには、われわれが知らない広くて深い“ジェットコースター沼”があった。

「ジェットコースターが、どんどん可愛く見えてくるんです」

三重県にあるナガシマスパーランドの「白鯨」に乗るジェットコースター男さん(特別な許可を得て撮影しています)

──470機乗っても「まだ乗りたい」と思える“オタク”力に、もう脱帽なんですが、ジェットコースターのどういった部分に魅力を感じ続けているんでしょうか。

ジェットコースターって同じ乗り物でも、電車や飛行機より“生き物”に近いと思うんですよ。

 頂上まで引き上げてしまえば、ガソリンや電気といった動力がいらない。あとは位置エネルギーだけで最後まで走ります。だから、同じコースターでも乗客の総体重でスピードが変わるし、雨上がりの日には滑りがよくなって速くなったりする。特に木製コースターだと、温まるにつれてレールに塗られたグリスが溶けるので、朝より夕方のほうが速いんですよ。

 システマチックじゃないので、同じコースターでも毎回、違うスリルを味わえるんです。だから何度も乗りたくなる。これはハマれる理由のひとつかな、と思いますね

──びっくりです……。常に同じ速度だとばかり思ってました。確かに、そう言われると人間味がありますね。

「はい。すると、ジェットコースターがどんどん可愛く見えてくるんですよ。ずっと野外にいるので、どうしても風雨にさらされて劣化するじゃないですか。メッキがはがれていたり泥が付いていたりするのを見ると、“お、こいつがんばってるな”って(笑)」

──なるほど。だんだんと「ただのアトラクション」じゃなくなっていくんですね。これは分かる気がする……。

「こんな感じで沼にハマっていったら、だんだん“ジェットコースターの生みの親”であるメーカーが気になっていくんですよ。車マニアが、“トヨタが好き”、 “いや、マツダだろ”と話す感じで、ジェットコースターマニアは、“やっぱインタミンの乗り心地はレベルが違う”みたいな話をしてます(笑)

──すごい世界(笑)。ちなみにジェットコースター男さんがお気に入りのメーカーは?

「僕はアメリカの『RMC(正式名称:Rocky Mountain Construction)』ですね。ナガシマスパーランドにある『白鯨』を作った会社です。白鯨もそうなんですが、古びてきた木製コースターのレールを鋼に取り替えて再生するのが得意な会社なんですよ。

 使えなくなったから解体するんじゃなくて、“新しい形に変えて使えるようにする”。この姿勢がマニアにとってはうれしくて、好きですね。

 白鯨では、ほかにも『レールの外側に曲がる』とか『逆さになったまま進む』といった、革新的な手法が取り入れられています。ウワサによるとRMCは超高学歴集団だそうで、とんでもなく技術力が高いんですよね

ジェットコースターが苦手な方は「目を開けて最前に乗るべし」

栃木県・那須ハイランドパークにある「ビッグバーンコースター」のレールに立つジェットコースター男さん(特別な許可を得て撮影しています)

──いや、しかしジェットコースターの世界が、ここまで奥深いとは……。ただ、幼いころのジェットコースター男さんみたいに「ジェットコースターが苦手」って人もたくさんいると思うんです。そういった方にアドバイスをいただいてもいいですか?

「まずは『乗車位置』について誤解している方がいると思うんですが、ジェットコースターでいちばん怖くないのは最前部です」

──え。めっちゃ誤解してました……。それはなぜ?

「最前部だと加速していない状態で落下するので、スピードが最も遅いんですよ。逆に、最後尾はイチバン速いときに落ちるので、そのぶん『マイナスG(※)』がかかる。つまり、最前部は“身体が浮く感覚”がもっとも小さいです」

(※マイナスG:ジェットコースター用語の1つで、身体が「浮く」状態になること。反対に重力がかかることを「プラスG」という)

──なるほど~。面白いです。実践してみたくなります。

「それと、前の景色が見えるのも大きいですね。ジェットコースターで怖くて目をつぶる方もいると思うのですが、あれは自主的に“『スペース・マウンテン(※)』状態”にして、怖さを倍増しているのと同じです(笑)。周りが見えないとパニックになっちゃうので、景色を見ながら乗ったほうが恐怖感は少ないんですよ」

(※ 東京ディズニーランドのローラーコースター。宇宙空間をモデルにした暗闇のなかを進んでいくスリル感を味わえる)

──うわぁ、“セルフ・スペース・マウンテン”やっちゃってました……。怖い人ほど後ろに乗りたくなるし目をつむりがちだから、どんどん苦手になっちゃうんですね。勉強になります。

「はい。だから、そこは勇気を出して最前で景色を見ながら乗ってほしいですね。すると以前の僕みたいに、“意外と怖くないじゃん”って思えることもあります。

 あとは、“ジェットコースターは安全だよ”ってことを伝えたいです。ジェットコースターは、あらゆる乗り物のなかで事故が少ない。でも、ごくまれに事故が起きると大きく報道されてしまうので、“怖い”というイメージが根づいてしまっている部分もあると思うんですよ。

 僕自身、スタッフさんと一緒にジェットコースターのレール横の点検用通路を歩かせてもらったりするんですけど、スタッフさんは毎日ネジの一つひとつまで確認しています。だから、安心して乗ってほしいですね」

──これはジェットコースター男さんだからこそ分かることですよね。お話を聞いてると、ちょっと乗りたくなってきます(笑)。

「ぜひ乗ってください。いま、日本ではジェットコースターがちょっと下火というか……だんだん機数が少なくなっています。だからこそ、改めて盛り上げていきたいですね。

 乗るのはもちろん、建造物としても美しい点も魅力です。ひたすら写真を撮る、撮り鉄ならぬ“撮りジェ”もいます。あとは、設計図を集めて構造を楽しむマニアの方もいたり(笑)。

 とにかく、いろんな楽しみ方ができるので、“最近乗ってないなぁ”、“苦手なんだよなぁ”という方には、恋人や家族と一緒に乗ってほしいですね。苦手な人こそ、インパクトが大きいはずですし、きっと一生の思い出になりますから
 

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ジェットコースターは「オタク心」をくすぐるアトラクション

「目からうろこ連発」な話だった。「乗り物なんですよ」と聞いて、はじめて電車や飛行機と同じカテゴリでジェットコースターを認識した。また「設計図も面白いんです」と聞いて、建築物としての魅力に気づいた。

 そう言われると、ジェットコースターはスリル感だけではない。乗り物としてもアートとしても進化を続けており、新しい魅力を提供し続けてくれる。鉄ヲタや建築ヲタの「オタク心」までくすぐってくれるアトラクションだ。

 ジェットコースター男さんの最近の楽しみ方は「ジェットコースターを見て乗客のストーリーを想像すること」なんだそう。「小さいジェットコースターでも、地元の人たちのいろんな思い出を乗せて走り続けてるんだなぁって想像しちゃうんです」と優しい目で笑う。そう考えると、ジェットコースターは“深み”もある。

 第1弾での話に戻るが、ジェットコースターの思い出はみんなにとってプレミアムなものだ。そしてあと1か月もしないうちに、2年ぶりの“(わりと)自由に動ける夏休み”がやってくる。子どもは「大切な思い出を作る」ために、大人は「昔の記憶を振り返る」ために、ぜひ、久しぶりに乗ってみてはいかがだろう。

(取材・文/ジュウ・ショ)


◎ジェットコースター男さんTwitter→@jetcoasterotoko