「絶対に見返してやる」と誓った初めてのライブスタッフとしての経験
──なるほど。『芸人さんのルーツを調べる』という行為も『これまでのストーリーをたどる』ということですよね。テレビ画面の姿をそのまま受け入れるというより、やっぱりリアルな姿のほうに興味があったんでしょうか。
「そうだと思いますね。それでお笑いにどっぷりハマっていた高校3年生のときに、文通をしていたお笑い好きの友だちから、“今度、なかの芸能小劇場で芸人さんのライブのスタッフをするんだけど、一緒に行かない?”って誘われたんですよ」
──いきなりスタッフだったんですか。
「はい。実は純粋にお客さんとしてライブに行ったことはなかったんです(笑)。
それで、はじめて劇場に足を運ぶのってちょっと怖いじゃないですか。だから事前に手伝いの下見をしようと父を連れて、なかの芸能小劇場にライブを見に行ったんですよね。こっちとしては、“憧れのネプチューンに会えるかも……”っていう期待でワクワクしているわけですよ。
でも行ってみたら想像と全然違って、見たことない芸人さんしかいない。しかも、ちょっとカルト芸人的なライブだったんでパンツ一丁の芸人さんとかもいて。帰りに父が、“これ……本当に大丈夫か……? ここでスタッフやるのか?”って(笑)。
──たしかにお父さんとしては心配になっちゃう(笑)。
「そうですよね。でも両親は常日ごろから、“とにかく家でテレビを見るだけじゃなくて、外に出て体験してみろ”って言ってくれていたので、応援はしてくれていたんですよ。それで、とりあえずやってみようと思ったんです。
で、ライブ当日になっていざ現場に行くと、もちろんテレビに出ている芸人さんはいない。しかも正直言ってネタも面白くない。そのうえ、誘ってくれた友人は顔がかわいい子だったんで、演者から「え~、新人なんだ~。かわいいねぇ」ってちやほやされてるんです。一緒に来ているのに私は声もかけられない。もう途中からふてくされて、“あぁ、早く家に帰って録画したお笑い番組見たいなぁ”とか思いながら楽屋でサボってたんですよね(笑)」
──(笑)。
「そうしたら、演者の落語家さんに見つかって、“なに新人がサボってんだ!”って灰皿を投げつけられたんですよ」
──えぇ、怖っ。
「普通、『怖い』って感じますよね。そう思えたらよかったんですけど、私は腹が立ったんです。“なんで名前も顔も知らないヤツに怒られなきゃいけないんだよ!”って(笑)。とにかく悔しくて、“絶対に見返してやる”と」
──そう思えることがすごいです。児島さん持ち前の「強さ」ですよね。例えば僕なんてゴリゴリの“ゆとり世代”なんで、初めての現場で灰皿投げられたら「え、だるっ、帰ろ。おつかれさまでした~」ってなっちゃう。
「子どものときから気が強かったのは大きいと思います。ただそれ以外に、そもそも、“こっちは名前も顔も知らないのに手伝ってやってるんだぞ”っていう気持ちがあったんです。だから悔しかったんですよ。
それで、“次のライブもスタッフとして参加しよう”と。ここからスタッフ生活が始まりましたね」
──なるほど。でも、いわゆる初期衝動が「悔しい」だと、芸人さんにネガティブな気持ちを持ってしまいそうだと思いました。どうして「サポートしたい」っていう前向きな気持ちに変わったんですか?
「やっぱり芸人さんのかっこいい姿を間近で見ていたからだと思います。スタッフを始めた高校3年生のころって、ボキャブラブームが下火になってきてライブシーンも過疎化していたんですよ。『お客さんが10人もいないライブ』っていうのがザラでした。
それでも出番を待つ芸人さんって、緊張して手が震えてるんですよね。出番を終えて楽屋に入った瞬間に、ネタのことで大ゲンカする芸人さんもいる。そうした姿を間近で見ていて、“芸人さんってかっこいいなぁ”と尊敬できたんです」
──芸人の「本気」が伝わってきたんですね。
「そうですね。それで『見返してやる』から『認められたい』に気持ちが変わりました。だから特に最初のころは、ほめられることがやりがいでしたね。
でも当時は芸人さんも厳しくて、例えば“飲み物買ってきて”と言われたとき、こっちはほめられたいから走って買ってきますよね。それで息を切らしながら手渡したら、“いや、お前の頑張りとか求めてねぇから。疲れてるところ見せんな”って逆に怒られたり……。それで、“ほめられるためにはどうしたらいいんだろう”って、失敗から学び続けていました」
──めちゃめちゃスパルタですね。そういったシビアな現場だと強くなれそうです。
「もちろん鍛えられました。ただ、ものすごくひねくれましたよ(笑)。顔では反省の表情をしつつ、腹の中では、“私がどんだけ頑張っても、所詮かわいい子とか身のこなしがうまい子のほうが、かわいがられるんだよなぁ”って思うこともありました(笑)」
──(笑)。そういった状況もあったんですか?
「ありましたね(笑)。例えば芸人さんに、“今日の俺のネタどうだった?”って聞かれたとき、私は正直に“前回のときの展開のほうが好きでした”と感想を言ったんです。すると芸人さんはムスッとして、ほかの子に“どうだった?”って聞きにいくわけです。
その子が、“すごく面白かったです〜”と答えたら、“だよなぁ。自信あったんだよねぇ”と……。それで、“あぁはいはい。そっちのほうがいいのね”みたいな(笑)」
──(笑)。でもやっぱりそこまでお笑いに熱いからこそ、20年も続いてるんだと思いますよ。
「そうですね。たしかにいろんなスタッフを見てきましたけど、ただ『お笑い芸人が好き』だけでは続かないと思います。“たとえボランティアでも、私にやらせてほしい”と思えるくらい、お笑いへの情熱や意地がないとスタッフは続けられないですね」
※後編では、「K-PROの立ち上げ時期から今日に至るまでの児島さんのストーリー」や「YouTube全盛の時代だからこその舞台にかける思い」について紹介する。
(取材・文/ジュウ・ショ)