“臨時職員”から熊本を代表する“顔”へ、3つの大きな転機とは
くまモンにはその進化の過程で、大きな転機が3つあったと知事は言う。
「まずは『楽市・楽座』(※)として、キャラクター利用料を無料にしたことです。これによって多くの商品にくまモンが使用され、それが市場に出回ることで、くまモンの認知度を飛躍的に高めることにつながりました。私は現在のくまモンの認知度・好感度を作り出したいちばん大きな要因は、この楽市・楽座だと思っています」
(※ 安土桃山時代に織田信長などの戦国大名によって、各支配地の市場で行われた経済政策。「楽市」は特権商人の市場独占を否定し、新興商人の自由営業・課税免除を認めた市場振興策、「楽座」は楽市令の対象となった市場に限定して、同業者組合による商売の独占を否定し、楽市令をより強化する政策とされる)
熊本の野菜や食品には、くまモンのイラストがついているものが多い。業者は申請さえ出せば簡単な審査をへて、無料でイラストを使うことができる。同じ「トマト」なら、かわいいくまモンのイラストがついた熊本県産を買ってしまうのが人の心理だ。
「2つめの転機は、やはり2011年の『ゆるキャラグランプリ(R)』です。2010年にデビューしたくまモンの人気が全国区になるきっかけとして、この優勝は大きかった。優勝して凱旋(がいせん)したとき、私や県庁職員、くまモンを応援してくれた地元の人たちとみんなで、県庁で彼を迎えました。ファンの方たちが喜んでくれていたのが印象に残っています。そしてこの年、くまモンは臨時職員から営業部長に昇進しました」
県庁職員もびっくりの大抜てきだが、知事の目に狂いはなかった。その後のくまモンは熊本県のみならず、日本中で、そして日本を飛び出して世界へと活躍の幅を広げていったのだから。
「そして3つめの転機は、2018年からの本格的な海外展開です。くまモンイラストの商品等への利用を、海外企業にも解禁しました。これによって、くまモンは世界に広がっていったと思います」
それまではいわゆる「バッタモン」も多かったくまモングッズだが、適正利用料をかけることで(国内は現在も無料)、熊本県お墨つきのグッズが世界に広がることになったのだ。結果、経済効果は右肩上がりで、関連商品の累計売り上げは1兆円を超えた。
「1兆円突破はひとつの目標でもありましたから、とてもうれしく思っています。経済効果だけでなく、くまモンを愛してもらっていることが実感として伝わってきますからね。商品に利用してくださっているみなさま、その商品を購入して熊本を応援してくださるみなさまの温かい気持ちに、改めて感謝を申し上げたい。と同時に、くまモンには、これからもしっかりと熊本をPRし、熊本を元気にする存在としてがんばってほしいと思っています」
……と、ここでくまモン登場。仕事が詰まっているため、若干、遅れてやってきた。入り口で一礼、さらに取材陣に向かって丁寧にお辞儀。そして知事と腕を使ってハイタッチしたあと、席についた。場の雰囲気が一気に華やいだ。
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最初から順風満帆だったわけではなく、数々の試練を乗り越え、熊本県を支える存在となったくまモン。インタビュー第2弾では、蒲島県知事からくまモンへの想いや今後への期待を、さらにじっくりお聞きしています。
(取材・文/亀山早苗)