タナカくんが母親に打ち明けていたこと

 タナカくんが逝ったとき、コロナの真っ最中でご遺族が葬儀に立ち会うことができなかった。お父さんは他界されてた。お母さんが見送ることができなかったことをずっと悔やんでらっしゃったのが気になって、半年ほど前に訪ねて会っていただいた。

 食事をしながら思い出話に花を咲かせていたら、たまたまサンドイッチの話題になった。

 息子が家に帰ってくるたびサンドイッチの自慢をしてました。土曜日の朝はサンドイッチを作って起こしてくれるんだよ。何しろチーズがおいしくて、あのサンドイッチを食べたら他のサンドイッチは食べられない……、って褒めていました。

 そう言われて泣いちゃいました。

 それにネ。

 サンドイッチを作る気配にいつも目がさめ、ベッドの中でワクワクしながら待ってたんですって……。

 起きていって手伝おうかとも思うんだけど、ボクを起こすために作ってくれるサンドイッチ。だからずっと寝たふりするんだ、って言ってましたよ……、と。

 あぁ、ボクはなんて幸せ者なんだって、涙を止めることができなくなりました。

*次回「【サカキシンイチロウさんが綴るパートナーとのおいしい記憶#3】残りもののおかずを“よそ行き”に変えてくれる、とっておきの魔法」は明日(8月10日12時)公開予定です。

《PROFILE》
さかき・しんいちろう 1960年、愛媛県松山市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、店と客をつなぐコンサルタントとして1000社にものぼる地域一番飲食店を育成。現在は、飲食店経営のみならず、「食」全般にわたるプロデュースやアドバイスも手がけている。「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載をまとめた『おいしい店とのつきあい方。』(角川文庫)など、著書多数。ブログFBnote等を毎日更新。食べることの楽しみを発信している。