30歳目前にして韓国留学、新たな学びと一生の友を得る

 父は、日韓ワールドカップ('02年)の前に亡くなったのですが、そのときに韓国の親戚とコミュニケーションがうまくとれなかったことから、両親のルーツを正しく知りたいと思い、29歳で韓国に語学留学をすることにしました3か月でマスターできると思ったら、とんでもない、1年かかりました。

 両親の会話は韓国語だったので、小さいころは当たり前のように聞いていたのですが、2人がそろっている姿を見たのは7歳くらいまで。8歳のときに母がガンになり、入退院を繰り返していましたし、のちに父もガンにかかり、2人とも声帯をとってしまう病気だったので、そのあとは、きちんと話した覚えがないんです。

 大人の韓国語のニュアンスが、日本の生活が長くなったせいで理解できなかったり、昔、母が知人への引っ越し祝いにトイレットペーパーを配っていたことが恥ずかしかったりしました。でも、韓国に行ってそういう文化があることを学びました。生まれた地である済州島の親戚に家族のルーツも聞けて、いろいろな誤解がとけました。済州島に行ったとき、なぜか郷愁を感じて、懐かしい思いがあふれました。改めて、韓国は自分のルーツでもあるのだなと、感慨もひとしおでした。

家族写真。アンミカさんはご両親、ごきょうだいへの感謝の気持ちを何度も口にしていた 写真=本人提供

 帰国後、韓国観光大使に任命されたのですが、ちょうど日韓の関係が悪化して、イベントがすべて中止になってしまいました。観光大使として何にも携わることができなかったことが残念でなりません。今後は、国民レベルで前向きに交流していけることを強く願っています。

 韓国留学で知り合ったクラスメートたちは、ひと回りくらい年が離れているにもかかわらず、今となっては大親友ばかり。私は韓国に行く前、パリコレに出たり日本でテレビ出演をしたりで、少し調子に乗っていたところがあったと思うんです。ところが、韓国に行ったら、私が期待していた扱いと違う。「在日なの? 苦労したね」とハグしてもらえると思いきや、とんでもない。在日韓国人は誤解されている部分もあって、学校の先生に、「あなたたちは韓国語が完璧ではないから、韓国人ではない」と言われてショックを受けたこともありました。そんな失望感を共有した同志でもあります。

 日本で韓国の化粧品がブームになってからは、そこでの友人たちが私がQVC(テレビショッピングの専門チャンネル)で担当している化粧品会社に就職したり、世界でのイベントを企画している夫の会社に入ったりと、さらに心強い仲間たちとなりました。そんな、ともに苦難をのりこえてきた、何ものにも代え難い友も、初舞台を応援してくれています

初舞台だからといって甘えは厳禁。「50歳、行くぞっ!」

 舞台の出演メンバーと初めて顔合わせをしたときには、周りが憧れていたミュージカルスターの方々ばかり。「〇〇さんが同じ空間にいる!」と、ミーハー心にキョロキョロしてしまいました。わきあいあいとした雰囲気で、台本を読みを始めると、鴻上尚史さんの脚本がまた面白くて、爆笑の嵐です。

 歌や踊りの先生からも先生呼びを禁止されるほど、なごやかな現場なのですが、私は上下関係に厳しい韓国式に慣れているので、つい「先生」と呼んでしまうんですよね(笑)。初舞台である私に対して親身になって指導してくださり、毎日、稽古場に行くのが楽しみです。反面、初めてだからと甘えてはいけない、という気持ちも。これまで培ってきた体力、持久力を生かしてハードな公演を乗り切っていけるように、「50歳、行くぞっ!」と気合いを入れ直したところです。

 3回目の再演となり、ファンの方も多い作品ですが、これまでの経験を生かした“人の傷みがわかり、包容力のある魔法使い”を演じて、舞台を盛り上げていきたいと思います。ぜひ観にいらしてください。

(取材・文/Miki D'Angelo Yamashita)


【PROFILE】
アンミカ ◎'93年にパリコレ初参加後、モデル業以外でも、テレビ、ラジオ、ドラマや映画、時には歌手として、様々な表現分野で活躍。野菜ソムリエ、漢方養生指導士中級、ベジフルビューティーアドバイザー、NARDアロマアドバイザー、化粧品検定一級、ジュエリーコーディネーター3級など20の資格を活かし、服やコスメ、ジュエリーなど商品プロデュースを展開。ポジティブな考え方、幸せな生き方を提唱すること講演会も人気で、幸せに関する本も多数出版。'22年も自身プロデュース【アンミカのポジティブ手帳2023】を9/29に発売予定。舞台出演は『シンデレラストーリー』が初となる。

【INFORMATION】
ミュージカル『シンデレラストーリー』
作:鴻上尚史、音楽:武部聡志、作詞:斉藤由貴、演出:ウォーリー木下
出演:加藤梨里香/水嶋 凛(Wキャスト)、大野拓郎、佐藤アツヒロ、アン ミカほか

《東京公演》9/6〜9/19 日本青年館ホール
《愛知公演》9/24〜9/25 東海市芸術劇場 大ホール
《福岡公演》10/1〜10/2 キャナルシティ劇場
《大阪公演》10/7〜10/10 梅田芸術劇場 メインホール
※公演詳細やチケット情報は公式サイトへ→https://www.cinderellastory2022.com/