“言語化できない、なんかいい”を大切にする

──BGMへのこだわり含め、音楽とサウナの相互作用についてはどのようにお考えでしょうか?

「ARCHでは、サウナ室や休憩スペースにスピーカーを設置して、そこでプレイリストを流してもらえるようにしていますが、その理由は音楽があることで“ARCHはこういうコンセプトの空間ですよ”ということをお客さんに五感で感じてもらえるというか、一番自然に理解していただけると考えているから。クラブもそうですが、音楽がそこにあることで、特に音楽に詳しくなくても、なんとなく楽しいとかイケてる感じは自然に伝わると思うんですよ。そういう“言語化できない、なんかいい”を僕は大切にしていきたいし、それが伝わって初めてお客さんの印象に残る。そう考えるからこそ、ARCHではアメニティも含めて施設の細部にまでこだわっています」

4階の休憩スペース。ARCHだけあって天井もアーチ状に 撮影/渡邉智裕

──クラウドファンディングでは目標額50万円のところ、3220%達成となる1600万円を超える支援金を集めたことも話題になりましたが、ただ、そもそも目標額50万円という金額は少ない気もします。この目標金額設定にはどういった意図があったのでしょうか?

「クラウドファンディングについて、リサーチしてみたところ、達成しているプロジェクトのほうが支援を考えている人に興味を持ってもらいやすい傾向にあることがわかりました。例えば、残り25日の段階で達成率32%のプロジェクトと達成率800%のプロジェクトだと、どちらに興味を持つかといえば、僕は後者だと思います。そういう“行動心理学的”なものも考慮した上で、目標額を50万円に設定しましたが、今回は結果的にそれが功を奏しましたね

──クラウドファンディングでは支援者にとって魅力的なリターンも必要になります。リターンではARCHの会員権も用意されましたが、そのようなリターンを設定する上で心がけたことはありますか?

「これに関してはプロジェクトを公開した後も本当に正しいのかと悩んだ部分もあります。ただ、他の会員制サウナと会員になるための条件の差別化を図るということはかなり意識的に考えました。今、都内にもいくつか会員制サウナがありますが、そういうところが設定している入会金や年会費のハードルは、ちょっと高すぎる気がするんです。それは僕だけの印象というわけではなく、僕の周りの経営者もそうですし、ある程度、高所得のサラリーマンも実はそういうところを結構シビアに見ている人は多いと思うんですよ。

 ただ、リサーチしているとサウナの会員権に数百万円は出せないけど、数万円程度だったら興味がある”という人も最近は増えてきていることがわかったので、今回のクラウドファンディングでは、会員権の価格帯をあえてそういう人が手の届きやすい数万円程度にすることで、興味を持ってもらえるようにしました

──クラウドファンディングで大成功を収められたことで、サウナ開業までは順風満帆だという印象もありますが、これまでにはどんな苦労がありましたか?

正直、大変なことばかりでしたね。その中でも一番大変だったのは開業のための資金集めです。さっきの民泊の話ともつながることですが、今回はコロナ禍で傾きかけた企業を支援する補助金制度を利用しました。ただ、その申請がめちゃくちゃ大変だっただけでなく、その後に銀行から融資を受けるまでにもまた紆余曲折あって……。サウナ開業にあたっては法的な縛りなども多く、さまざまな制限をクリアする必要がありました。何をするにも苦労しっぱなしでしたね(笑)

サウナを通じて、さまざまなコミュニケーションの価値を提供

──なるほど。やはりサウナ開業は簡単ではないんですね! では、最後に今後のARCHの展望を教えてください。

「今後はARCHの運営のほか、サウナ関連のポップアップイベントを企画しながら、ARCHのブランドを深めたいです。今、バーで提供しているOFF COLAさんとのキャンペーンのようにサウナとマッチしそうな事業を展開している企業だったり、ARCHが打ち出したい世界観と近ければ、サウナに限らずコラボして、他のカルチャーとも密接にリンクしていきたいですね。そうすれば、お互いに独自の価値を高めていけるはずです。それと音楽プレイリストの数も増やしていく予定です。

 あとARCHを貸し切りにしてイベントの会場として利用してもらい、そこでいろいろな人に交流してもらったり、ワーケーションやサウナミーティング、サウナ接待で使っていただいたりするのもいいですね。また何かのお祝いごとの際に利用してもらう“ギフトサウナ”など、この施設だけでもいろいろなユースケースが考えられるので、サウナを通じてさまざまなコミュニケーションの価値を提供していきたいです。

ハンギングチェアに座って話す藤永さん。夢もふくらみます 撮影/渡邉智裕

 今は会員枠がすでに埋まっている状態なので新規受付は停止していますが、今後、受け入れる体制が整えば再開する予定です。会員制・紹介制ではありますが、新規募集時にはLINE公式アカウントにて告知します。ちなみにバーはどなたでもご利用できるので、そちらに通っていただくといち早くその情報が手に入る可能性がありますよ!」

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Part2では、ライター自らサウナを堪能してレポートします!

(取材・文/Jun Fukunaga、編集/福アニー)

【Information】
●Boutique Sauna ARCH 神楽坂
神楽坂の秘湯。完全会員制・紹介制、たった2室だけの貸し切りプライベートサウナ。

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