日本のチェーホフと呼ばれ、人間の内部で無意識に動く感情を説明的な台詞を排し、物語の核を隠しながらもリアルに生々しく描き出すことに定評のある劇作家であり演出家・岩松了の新作。映画製作の現場で繰り広げられる、ある新人女優の死をめぐる映画監督と女優たちの愛憎と葛藤を悲喜劇として描く。
【あらすじ】
1人の新人女優・堀美晴が亡くなった。そのために暗礁に乗り上げていた映画の製作が、全員の「この映画を完成させなければ!」という思いで、クランクインの時を迎えた。
堀美晴の葬儀は撮影所内でごく内々にすませられた。監督の別荘の湖に溺れて死んだ事故となっていたが、真相はよくわからないままだったのだ。彼女が事故当時、持っていたはずのお気に入りのポシェットが見つからないことなど、本当に事故なのか、あやふやな状況だった。しかし、映画を完成させるために、動き出さなければならない。そんな状況下での撮影だったため、監督(眞島秀和)の殺気だった緊張感に満ちた指揮ぶりは常軌を逸していると言ってもよかった。飛ぶ鳥を落とす勢いの主演女優・羽田香織(秋山菜津子)にも容赦ないダメ出しが飛ぶ。そんな中、プロデューサーの紹介で抜てきされた女優ジュン(吉高由里子)が徐々に存在感を増してくる。
撮影のために世間から隔絶された場所で、主演女優、マネージャー(富山えり子)、ベテラン女優(伊勢志摩)、若手女優(石橋穂乃香)、それぞれの思惑と、監督への愛情が次々に彼を追い詰めてゆく──。堀美晴は殺されたのか、だとしたら誰が彼女を殺したのか……、映画の現場は次第に混沌(こんとん)としていき、やがて悲劇的な結末を迎える──。
気が強い役より柔らかな人の役がいい
──今作の台本を読んだ感想は?
「(インタビュー当時)まだ、さわりの部分しかいただいていないのですが、眞島(秀和)さん演じる監督が、全員と関係を持っていて、それで誰かに言い寄って新人女優を殺させたとか……。最低な人だと、面白いなと想像しながら読んでいました」
──そういう展開は面白そうですね。今回、女優役を演じることについてはどう考えていますか?
「芝居をする人の芝居をするという、なんだかこんがらがりそうな感じの役どころではあるのですが……。すごく勝気な性格の人じゃなければいいなって(笑)」
──勝気じゃないほうが演じやすいですか?
「そうですね。気が強い役って体力を使うので。柔らかな人だったらいいなとは思います」
──舞台の現場は、吉高さんにとってどんな場所ですか?
「緊張します。自分に興味を持って観てくれている人をちゃんと知ることができる機会でもありますね。あと、映像作品ばかりだったので、舞台上で失敗したときに自分を立て直す心のモチベーションの持ち方というか、メンタル強化の場ではあるなと感じます。
うれしいことは、観てくださる方が高揚している表情や感情が、重いくらい伝わってくること。舞台を観るために仕事を休んだり、予定を変えたりして来てくれているんだなと思うと、すごくうれしいですよね。たまに眠っている人を目の前にするとやっぱり寂しくはなりますけど(笑)、そういうのも本番の力に変える訓練なんだろうなって」
──久々の舞台稽古になりますが、期待していることや楽しみにしていることは?
「今までの舞台でも、形も見えなかったものがどんどん形に育っていく過程や、自分の役を知っていく過程が楽しかったので、今回も楽しくあってほしいなと。そして、誰も怪我などすることなく、無事に走りきれたらいいなと思います」