安倍元首相はなぜ現場に留め置かれたのか?

 Coverというのは「Body Cover(ボディー・カバー)」といって、脅威となるものがあった時に、守る対象と脅威との間に自分で割って入ってカバーをする(守る)フィルターになるというのが、まず1つ目の行動です。

 ただフィルターだけでは、例えば自分が撃たれたら、まだ警護対象者がいますし脅威者も残っている。脅威者が取り押さえられていたとしても、もしかしたら他に仲間がいるかもしれないし、脅威者が悪あがいて最後にもう1発撃つかもしれない。もしかしたら、彼がおとりで別の仲間が襲撃してくるという可能性も大いに考えられるわけです。

 常に次の攻撃者、次の攻撃を想定して行動しろというのが基本的な緊急時の行動なので、Cover & Evacuate(即時介入と現場退避)、 特に現場退避は絶対しなければならないことなのです。たとえ警護対象者が死んでしまっていようが、極端な話、首がなくなった状態でいようが、散ってしまった身体の部位をかき集めて車に乗せて、とにかく緊急退避する。

 このCover & Evacuateは警護の緊急時に絶対にやらなくてはいけない。他のことができていなくても、これができないといけないっていうぐらい、警護の基礎中の基礎です。

「現場対避は絶対しなければいけない」 撮影/矢島泰輔

 一般的な警察の行動は、犯罪行為などが行われた際、犯人を取り押さえることです。そのため今回も、現場から犯人を逃さないため、また証拠品などを押収するため、警察はすぐに道路封鎖をしました。

 しかし、道路封鎖をしたために、外側にいた安倍元首相の車が入れなくなった。さらに周辺は大渋滞が起きて、救急車も容易に入れなくなってしまったんです。一方で現場退避もできていない。必然的に安倍元首相への応急処置も遅くなる。安倍元首相は数十分も放置されてしまった。これは完全に警護計画のミスでしかありません。