「人間の盾にならない」警護の本質

──ボディーガードやSPは「人間の盾になれ」と言われると聞きます。 このことについてどう思われますか。

「人間の盾になれ」という話は中世以前の話、つまり大昔の時代遅れの話です。警護の手法には大きく「トラディショナル・プロテクション」と「モダン・プロテクション」の2種類に分けられます。

 トラディショナル・プロテクションというのは、古典的警護手法と訳されています。一方のモダン・プロテクションは近代的な警護手法という意味です。この2つ、何が違うかというと、かつての攻撃者は実際フィジカル的にダイレクトに攻撃をしてくる。例えば、殴りかかってくる。刃物で刺す、刀を振り回す、槍で突くとかです。

 昔は身体への直接攻撃っていうのがメインだったので、警護する側も身体を鍛えて、とにかく身体の大きな人間が剣術とかを覚えて戦って守るというやり方で、実際、当時はそれでよかった。

 近代的な警護手法は少し変わっていて、例えば爆発物を仕掛けて、 遠隔で爆破させたり、危険な薬品をばらまいて人が次々に倒れたりとか、遠隔的な攻撃や距離を取った攻撃とか、また直接的な攻撃ではないけれども、放っておくと後々問題になってくるような間接的なものです。このように攻撃手法が増えてきている。これに対して当然、守る側も警護手法を変えていかないといけなくなりました。

「身体を鍛えることは重要ではありません」 撮影/矢島泰輔

 僕がイスラエルで警護を学んでいた時に、現地の教官に「おまえがどんなに身体を鍛えようが、どんなに射撃の腕がよくなろうが、爆弾を抱えたテロリストが目の前に来て、スイッチを押そうとしている状況でおまえができることなんか何一つない」と言われたのです。「相手を殴ろうが蹴ろうが、カチっと爆破ボタンを押されたら死ぬぞ」とも言われました。

 真の警護はそうではない。自爆テロリストの攻撃を受けたくなかったら、どう戦うかではなく、どうしたらそのテロリストが近づいてこないようにするか。未然に防ぐかということに力を入れないといけない。目の前に危険が発生してから守れるか守れないかは、もはや運でしかない。

 運がよければ先に相手を倒すことができますが、運が悪かったら先にボタンを押されてしまう。僕らボディーガードは、プロとして、運で仕事をしたらダメなんです。「どうしたら確実に守れるか」ということを考えて、「未然にどう防いでいくか」ということを実践していかなくてはいけない。

 僕らの業界で「10分の1の法則」という言葉があります。準備をしていなければ、10回襲撃される可能性がある時に1回ぐらいしか守れないので、相手には9回アドバンテージがあるという意味が1つ。そして、優秀なボディーガードは10回起こりうる脅威を9回は未然に防ぎ、どうしても防ぎきれずに起きてしまった最後の1回もちゃんと守る。警護の世界では「優秀なボディーガードは10分の1」とたたえられます。

 10回襲われる時、10回すべてを守ることは不可能です。最後の1回に身体を張ることになるかもしれないけれども、9回はしっかりと未然に防ぐというのが、僕らが考える警護の本質です。

※インタビュー後編(10月30日18時公開予定)では、「敏腕ボディーガードが説く危機を未然に防ぐための心構え」についてお伝えします。

(取材・文/羽富宏文)

《プロフィール》
小山内秀友(おさない・ひでと)──1973年生まれ。株式会社CCTT代表取締役。IBA(国際ボディーガード協会)副長官兼アジア地域統括責任者。1991年より国内外でセキュリティ関連の専門教育訓練を受け始める。2002年、英国Task Internationalに入校。要人警護やセキュリティマネージメントなどの専門教育訓練を受ける。2003年、日本に株式会社CCTTを設立。2004年、イスラエル国防省に関係する人物より誘いを受け、イスラエル国防省が許可する要人警護教育訓練およびセキュリティマネージメント教育訓練を現地で受ける。2009年、IBAでは最短記録となる約1年半で国際要人警護教育訓練指導員資格(CIBGI)を取得。同年12月、それまでの成果を認められ、IBAのアジア地域統括責任者兼副長官に昇任、IBA名誉勲章を授与される。数多くの海外アーティスト、有名スポーツ選手、有名グローバル企業要人、海外政府要人、海外王族ロイヤルファミリー、宗教指導者などの警護経験を持つ。