大人気のデザイナー・水戸岡鋭治さんからの、感謝の気持ちがつまった贈り物
──そして第1位は、『THE ROYAL EXPRESS』という、東急が運行する団体臨時列車の内装の1部分。鉄道ファンのあいだで大人気のデザイナー・水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)さんからのプレゼントということですが。
「『THE ROYAL EXPRESS』は’17年に運行を開始した、横浜〜伊豆急下田を結ぶ東急&伊豆急による豪華列車です。天然木や伝統工芸をふんだんに取り入れた車内は豪華絢爛。走行中は、有名シェフ監修の食事や、バイオリンのコンサートが楽しめる、私の大好きなクルーズトレインのひとつです。
ある日、水戸岡さんから送られてきたのが、この電子鋳造パネルです。川口の鋳物工場で作られたもので、これが天井に1両あたり300枚もはめられています。
僕は以前、水戸岡さんのデザインで軽井沢駅舎がリニューアルされたことについて、『日本経済新聞』に記事を寄稿したのですが、それを読んだ水戸岡さんが、お礼としてサイン入りで送ってくださったものなんです。自分が持っている水戸岡さんのサイン入り鉄道グッズの中でも、いちばん大切なものになります」
──水戸岡さんがよほど感激される記事を書かれたんですね。
「オープニングのタイミングで軽井沢駅に行ったんですよ。そのあと長野まで行って、夕方また軽井沢に戻ってきたのですが、オープニングの式典が終わり、報道陣などが帰って静かになった駅で、水戸岡さんとしなの鉄道の社長が、図面を見ながら一生懸命に仕事をされている。水戸岡さんが仕事をしている姿なんて普段見られないし、集中していて声もかけられないほど真剣な様子。柱の影からじっと見ていました。そのことを書いたんですよね。それを読んだ全国の読者から水戸岡さんに連絡があったとのことで、ご本人にも“感激した”と喜んでいただけたようです」
──水戸岡さんのデザインは、鉄道ファンの憧れと聞きますが、どこにそれほどの魅力があるのでしょうか。
「水戸岡さんは、もともとはインダストリアルデザイナー(飛行機、自動車、家電など、いわゆる工業製品のデザインを行うデザイナー)で、鉄道車両にはそれほど興味はなかったようです。なぜ電車のデザインで人気になったかというと、水戸岡さんがデザインを担当した九州のホテルのオープニングに来ていた当時のJR九州の社長が、“センスがいい”と気に入り、“鉄道車両をデザインしませんか”と声をかけたことから始まります。
そこで水戸岡さんが『アクアエクスプレス』(JR九州が'88年から'02まで保有していた特別仕様の鉄道車両)をデザインしたところ、常識を覆す斬新なデザインだったんです。ディーゼルカーの色を真っ白にしたんですよ。ディーゼルカーは、煤煙が出るから汚れるんですよね。だから、ディーゼルを白色にするっていうのはありえないとされていたのに、その色で勝負した。それがきっかけとなり、JR九州の専属として、すべての車両をデザインしています。今年9月に開業して話題を呼んだ西九州新幹線の『かもめ』も水戸岡さんのデザインです。
水戸岡さんは、インダストリアルデザイナーの観点から、居心地のよさも追求されています。座ると、抱かれるっていうんでしょうか、なにか安堵感に包まれる。椅子が普通の電車とは全然違って、座り心地のよさでも世界一です。ビジュアルもかっこよくてインパクトがありますが、これほど乗り心地を考えた電車は、まずほかにありません。今いちばん欲しいのは、水戸岡さんがデザインされた列車の椅子ですね」
めくるめく鉄道の世界。これを機にのぞいてみたら、あなたも鉄道の魅力のとりこになるかも……!?
(取材・文/Miki D'Angelo Yamashita)
【PROFILE】
櫻井 寛(さくらい・かん) ◎鉄道フォトジャーナリスト。'54年長野県生まれ。昭和鉄道高校、日本大学芸術学部写真学科卒。出版社写真部勤務をへて'90年に独立。'93年、航空機を使わずに88日間世界一周。'94年『交通図書賞』受賞。『日本経済新聞』『毎日小学生新聞』『はれ予報』『ロケーションジャパン』など連載中。 著書は代表作に『オリエント急行の旅』(世界文化社)、『ななつ星 in 九州の旅』(日経BP)。最新刊は『日本の鉄道 車両と路線の大図鑑(私鉄編)』(講談社)。著書は共著も含め 100 冊超。95か国訪問。渡航回数は 240回以上。好物は駅弁。 日本写真家協会、日本旅行作家協会会員。東京交通短期大学客員教授。