菊池桃子が「みんなで盛り上がりたかった」斉藤由貴らとの“卒業対決”、ランキング上位の隠れた名曲とは

“卒業対決”は「ブームを楽しんでいた」、高校時代の1日のスケジュールは？

　そして、Spotify2位は、初の週間ランキング1位、累計売り上げ約39万枚以上（オリコン調べ）で自身の最大セールスとなった『卒業-GRADUATION-』。こちらは海外以上に国内において、卒業のスタンダード曲として多く聴かれている。

「'85年にリリースしたときは、こんなに何十年先まで聴かれるなんて想像もしていませんでした！　いわゆる流行（はや）りものは、リリースから2、3年もたてば、ごく少数の方が思い返してくれればいいかな、という気持ちだったので。やっぱり、ライフイベントと結びつくような歌は人気なんですね」

　'85年当時は、桃子のほかに斉藤由貴、倉沢淳美、尾崎豊の「卒業」というシングルが発売され、いずれもオリコン週間TOP20入り、各メディアでは“卒業対決”として大きな話題にもなった。その中で、シングルセールスとしては、桃子の「卒業-GRADUATION-」が最大となった。

「私はブームになっていること自体を楽しんでいました。そういう企画を立ててくださって、ノミネートされたにぎやかなメンバーの中に自分が入っているということがうれしかったですし、セールスで競うというよりは、“みんなで盛り上がりたい”という仲間意識がありました」

　この4枚目のシングルのころには、トップアイドルとしてベストテン番組の常連、雑誌の表紙、ドラマや映画、CMでの主演などマルチな活躍ぶりを見せていたが、当時の桃子はまだ、高校1年生から2年生になったばかり。どんなスケジュールで動いていたのだろうか。

「朝はみんなと同じように電車通学で、夕方になるとスタッフの方が車で迎えに来てくれて、そこからずっと仕事をしていました……現代だったら絶対に怒られそうなくらい、遅い時間まで。3時間ほどはベッドで熟睡していたと思うのですが、同じくらい学校でも寝てしまっていました（苦笑）。そして、あのころは土曜の午前まで授業があって、午後からと休日は、地方でのお仕事が多かったように思います。当時は、このスケジュール感で動くことが大変だったという気持ちはあまりなく、芸能界に入ったら当然のことだと思っていました。

　レコーディングはだいたい、平日の夜でしたね。連日ハードに動いていた期間も、声は普通に出ていました。若かったからかな？　今振り返ると苦労していた部分もあったかもしれませんが、これだけ時がたっても聴いてくださっている方がたくさんいらっしゃることに対して、本当に感動しています！」

第4位の「Blind Curve」は「自由に作れた。カッコいい曲を歌えてうれしい」

　そして、3位である前述のアルバム曲「Adventure」に続き第4位もアルバム曲で、こちらは1stアルバム『OCEAN SIDE』に収録された「Blind Curve」。

夏らしさ全開のカバー写真も話題を呼んだ1stアルバム『OCEAN SIDE』

　'92年生まれでインドネシア人の女性シンガー／YouTuberのRainych（レイニッチ）が、松原みき「真夜中のドア～Stay with me」などとともにカバー動画を投稿した影響が大きいが、《♪そして　I'll　teach you～》など、キュートに跳ねて歌う部分は、令和のアイドルが歌っても違和感がないほどキャッチーな楽曲だ。

「シングルの曲というのは、だいたいがドラマやCMなどのタイアップありきでコンセプトが決まっていて、意外と制約が多いのです。それに対し『Blind Curve』は、アルバムの中の1曲として、自由に作っていました。私は、このシンセサイザーの音がすごく好きで、ライブのときには自分で弾かせてもらっていました。当時のライブでは、この曲は今ほど人気ではなかったかもしれませんが、こんなにカッコいい曲を歌えていることが、子どもながらにうれしかったです！」

　海外のリスナーは、アニメやドラマの再放送がない限り、日本のタイアップ事情などは一切知らない。だからこそ、本作のように純粋に“いいもの”を目指して作られた楽曲が、'20年代の今、正当に評価されているともいえるだろう。次回は、5位以降の楽曲や、桃子の楽曲の再評価にも大きく貢献している韓国出身のDJ兼プロデューサー、Night Tempoによるリミックス音源についても語ってもらった。

Spotifyでの菊池桃子アーティストページも要チェック！（数字は2022年10月現在の累計再生回数）　※画像をクリックするとこの写真と同じページにジャンプします

（取材・文／人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝）

【PROFILE】
菊池桃子（きくち・ももこ）　◎1968年5月4日生まれ、東京都出身。B型。'84年に映画『パンツの穴』でデビューし、同年「青春のいじわる」で歌手デビュー。当時のキャッチフレーズは「It's Real Fresh 1000%」。爽やかで透明感のあるアイドルとして人気を博した。'12年3月、法政大学大学院政策創造専攻修士課程修了。その後、母校の戸板女子短期大学にてキャリア形成論等の講義を担当。現在は女優・歌手活動のほか、CM・ラジオ・講演など多方面で活躍中。'22年7月には、シングル楽曲の“陰”に隠れた名曲を最新リマスタリングし、林哲司が新曲2曲をプロデュースしたアルバム『Shadow』をリリースした。