ライブハウスが窮地の中、ラママが40周年を迎えられた理由

──ライブハウスに出演するのは、いわゆるノルマと呼ばれる支払いが必要だと聞きますが……。

「2011年の東日本大震災の前は、出演したいというバンドが多かったので、新宿JAMくらいの大きさの箱(注:スタンディングで200人収容できた)でも1組に対して3万円のノルマをもらっていました。1日に5バンド出たら、それだけで15万円なんですよ。今思えば、よくそんな厳しい条件で出演していたなあって思いますね」

──そうなんですね。ラママはコロナ禍で2か月くらい休業した時期もありましたし、収益を出すのは大変だと思いますが、それでも石塚さんがライブハウスや音楽活動から離れなかったのはなぜですか?

もちろん、無理かな……って思ったこともあるんですよ。第何波が来たって、コロナ禍で何もできない状態が続いていて、もう7回ぐらい心が折れていますね(笑)

──コロナ禍でライブができない状況が続いて、これまで観に来ていた人たちもライブハウスから足が遠のいているかもしれませんね。

「そういう人ね、すごくいっぱいいると思うんですよ。言い方が難しいけれど、影響力があって売れている人、ファンが多いアーティストはライブをやりにくいご時世ですし、お客さんもたくさん離れていったと思うんですよね。今、少しずつですが客足も戻ってきているけれど、まだライブハウスが怖いっていう人は、もう戻ってこない可能性もありますよね……」

石塚明彦さん 撮影/伊藤和幸

──ライブハウスが窮地の中、ラママが40周年を迎えられた要因は何だと思いますか?

僕がラママに入ってきて思ったのは、その時代ごとに“ラママが好き”っていう人がめちゃくちゃいるんですよね。それが強みかなって思いますね。アーティストにも、“ラママが好きだから出たい”と思ってもらえる。それが長続きした理由だと思います。ラママという空間が、独特な磁場を持っているんじゃないかな

──石塚さんは、演者としてもラママのステージに上がられていますが、ほかのライブハウスと比べて出演者として見たとき、ラママはどういう空間ですか?

「僕はドラムなんですが、ラママはドラム周りにあるモニターから聴こえる音が、きれいに混ざるんですよね。でも一音一音が粒立って聴こえてくる。たまに音がきれいすぎて混ざらない箱があるけど、そうなると音が分離しているみたいに聴こえて、居心地が悪いんですよ。ラママはいい具合に音が混ざるから、演奏に熱が入りやすい(笑)。意外とステージも広いけれど、狭い箱っぽい音がするんで聴きやすい。ロックバンドとして、やりやすい箱ですね

ステージ前に大きな柱があるのもラママの特徴 撮影/伊藤和幸

ライブハウスの動員数より、音源の再生回数を競う時代に

──最近はYouTubeやサブスクリプションが音楽の主流になっています。生で音楽が聴けるライブハウスとしてはどう感じていますか?

「僕がメジャーでバンド活動をやっていた90年代は、動員競争っていうくらいライブハウスの集客を意識していたんです。でも昔も、いろんな形で売れていった人がいるんですよ。

 僕は槇原敬之くんが高校の後輩なんですが、彼は若いころに宅録で作った曲を僕にひたすらヘッドフォンとかで聴かせてくれたりしていたんです。僕は“なんだよお前、ライブやれよ(笑)”って先輩目線で偉そうに言っていたんだけれど(笑)。それくらいライブをやることが音楽活動みたいな部分がありました。でも2000年代以降は、配信やら、YouTubeやら、いろいろな発信方法に分岐していった。そこから価値観が変わっていきましたよね

──今はライブハウスの動員よりも、再生回数の方が重要視されたりするのですか?

そういうアーティストもいますね。若いミュージシャンと話すと、“目標は再生回数〇回です”って言うしね。サブスクやYouTubeの再生回数が上がるように頑張っている人も多いです。例えば、年間12回ライブをやろうとすると、毎回、毎回友達に連絡したら“お前、またライブか”って思われちゃう(笑)。でもある程度再生回数があれば、みんな曲も知っていて盛り上がれる。今は再生回数が1万回になったご褒美にライブをやるという人もいます。でも、生で見られる快感は替えがきかないと思うし、それがなくなることは絶対ないって思うんですよ

──生で観に来る観客よりも、再生数のほうが重視されるのですね……。

「そういうところもありますね。昔は動員が少なかったら、ライブハウス側がアーティストを怒ったりもしていたんですよ。でも今の若い世代に言っても響かないんですよね。お客さんが3人から5人になるよりも、再生回数が1万になったほうがリアルにたくさん観られている気になるんじゃないですかね。でも僕にとっては、ライブで観てもらったほうがうれしいので、ブッキングマンとしてはそこが悩みどころですね」

──これからの世代の人たちが、ライブハウスに興味を持ってもらうのが大事そうですね。

そうなんですよね。今の19歳、20歳くらいの子なんて、ちょうどコロナ禍だからライブハウスに行ったことがない子も多い。でも、それぐらいの年代がライブハウスに行き始めるころじゃないかな。ラママでは『U-19』(特定のライブで10代はチケット代無料、ドリンク代のみで入場できる)っていうシステムをやったりしています。アーティスト側も若い世代に観てもらいたいって思っているんですよね。僕も長年バンドをやってますが、お客さんの年齢層も一緒に上がっていく。でも若い子にライブを観てもらったらどう思われるのかというのは、やっぱり興味がありますね」

入り口から地下へ続く階段。一歩一歩、降りるたびに今日はどんなライブになるのか、胸にワクワクが広がる! 撮影/伊藤和幸

──私も10代のころからライブハウスに通っていますが、ライブハウスに行ったら会える友達がいて一種の社交場みたいになっていました。

「それはありますよね。普段わざわざ飲みに行ったり、遊園地とか行く仲じゃないのに(笑)、ライブで会う友達っていますね。僕の場合は、ライブで地方に行ったりもしますが、そんなときにわざわざ“飲もうぜ”って誘うのは何だけれど、“ライブやるから観に来ない?”っていうのは声をかけられる。ライブって、人と会うためのひとつのきっかけになりますよね