本の方向性が変わるきっかけになった、現地での出来事
──ある一部だけを見て、そのすべてを知ったように思いこんでしまうことは、きっとほかのさまざまなことにも通じますね。
私は当初、山登りと観光をベースにしたハワイの本を書こうということを決めて行ったのですが、その方向性が大きく転換したきっかけが、上巻で描いたワイピオの王家の谷でハイキングしていたときの出来事でした。トラックに乗ったハワイアンの方が、白人のハイカーたちに気さくに話しかけていると思っていたら、急にタイヤをその場で猛回転して、ゴムの焼ける臭いと笑い声を浴びせて去っていったんです。
“今、いったい何が起こったの?”と驚いていたら、日本人ガイドの方が“白人が自分たちの文化や伝統を壊したと怒りを持っているハワイアンは今でもいるんです”と教えてくれて。そのときに、ハワイの表面的な部分だけを見て“楽しかった”で終わるのではなく、その心地よさの元を考えてみると、歴史というものが深くかかわっているんだなと思いました。
──そういったハワイの現状も実体験として感じたからこそ、本で伝えたいことが増えていったのですね。
あとは、ハワイ島のヒロという街の存在が大きかったですね。私も真珠湾攻撃のことは知っていたけど、実際に日系の方々がどんな苦労をされたのかは全然ピンと来ていなかったので、日系の方々が体験してきたことや移民としてのご苦労も、現地で日系の方の笑顔に触れるほどにきちんと伝えたいと思ったし、出会いによって心が動かされた部分は大きいです。
──そのほかに、鈴木さんが今作に込めた思いを教えてください。
私はいつも“人それぞれの違いを違いのまま受け入れられる社会になってほしい”とか、“異なる価値観の人たちがともに平和に生きていくために、どうしたらもっと心地よい社会になるだろうか”ということを考えています。ハワイでは “多様性”という言葉が今の日本で言われるずっと前から、すでに一歩も二歩も先に浸透しているんですよね。重ねてきた歴史の影響や苦しい経験があるのに、日系の方々が笑顔で私たちを受け入れてくれて。
それを感じたときに、“アロハ”という言葉に込められているものや、一人ひとり違う私たちがどうやってともに生きていくのかということを少しでも考えるきっかけが、この本のメッセージとして伝わったらいいなと願っています。