現代では“すれ違い”の状況を作るのが難しい。“新しいリカ”を生み出していければ
──昭和歌謡が今また脚光を浴びていますが、この作品が誕生した'80年代はアイドルブームやトレンディドラマ全盛時代。'85年生まれの笹本さんとの接点は何かありますか?
「ドラマや漫画を見てまず印象深かったのが、ファッションでした。今と同じような着こなしで、昔流行(はや)ったものが何周か回ってまたおしゃれに感じるのかと思いました。小物のコーディネートなどは、今でも参考にしたいくらい。リカは基本的にパンツスタイルなのですが、当時は珍しかったのではないかと思うんです。日本で育っていない、というリカのバックグラウンドをビジュアルでも出せるように工夫していきたいですね。やはり“帰国子女”は、リカの個性を出すポイントですので」
──舞台としての『東京ラブストーリー』をどのように作りたいと考えていますか?
「恋愛模様でいうと、携帯電話があるかないかで、著しく物語が変わりますね。家の電話だけで連絡し合う'80年代だと、約束の時間に来ないけど連絡がとれない“すれ違い”が'物語の核心だったのですが、携帯電話が当たり前という現代の設定になっているところが最大の違いです。現代では、すれ違いの状況を作ることが難しいんですよね。どのように表現されているか、楽しみにしていただきたいパートです。
リカは原作どおりアフリカからの帰国子女として登場しますが、日本人的な感覚も持ち合わせていて、しおらしさもある。でも、納得いかないことは、とことん自分の意見を主張する、という勇気もある。今の時代に共鳴されるような新しい物語になるといいですね」
── 4人の恋愛模様は、時代が違っても引き込まれてしまうような四角関係ですが、それぞれの人物像をどうどらえていますか?
「4人ともポイント、ポイントですごく共感できるところがあり、どのキャラクターも違和感なくスッと入ってくるように描かれています。そして、みんながみんな、不器用に生きている。不器用だからこそ、すれ違ったり思いを伝えられなかったり。日本人らしいメンタリティなんですよね。観る方にも、時代に関係なく、共感する心情が多々あると思います。
カンチとリカの関係は傷つけ合ってばかりですが、男女の不変のあり方でもあります。4人とも、人生を歩んでいこうとするペースがひとりひとり違うんですよね。リカとカンチを比べると、リカはすごく“早い”んです。早足で歩いている。一方、カンチはいつもゆっくり進んでいく。ペースが違うからお互いにイライラしたり、傷つけ合ってしまうのでしょうね」
──今までの人生を振り返って、自分の経験を投影できるところもありますか?
「傷つけ合ったかと思うとまた寄り添ったりするふたりの姿があまりにも身近すぎて、自分の経験を照らし合わせるところが多くあります。特に、思っていることがうまく伝わらなくて噛(か)み合わない、そんなもどかしさは誰もが経験していることですよね。観ている方も、切ない気持ちになったり、ほほえましく感じたり、それぞれの“あのころ”に浸っていただけるはずです。
登場人物はみんな、いいところもあるし悪いところもあるし、器用なところも不器用なところもあって、個性がはっきり分かれています。さとみは、ドラマでは女性から嫌われていた存在なのですが、私にとっては、とても共感できる女性です。さとみの心が揺れ動いてしまい、カンチをリカから奪うような形になってしまうのは仕方がない。それが、さとみのせいではないのだと、どうしても納得してしまいます。
また、リカのように帰国子女で自分の考えをはっきり表明する女性は、'80年代には異質だったかもしれませんが、今は女性が社会進出を実現し、勇気を持って発言できる人が増えてきている。リカのように生きている人が、むしろ普通かもしれません」
──昔はリカ的なキャラクターがあまり日本には存在していなかったから、ドラマが成り立っていたともいえますが、今では「普通にどこにでもいそうな女性像」となると、何か特別感をプラスすることも必要ですね。
「そこはすごく悩ましいところで、やはり、つかみにくい人間像として描かれています。腕の中に捕まえた、と思ったら、いつの間にかスッと抜け出していってしまう。つかみどころのない女性、だからこそ魅力的。そんな見せ方ができたら、観る方にも受け入れていただけるのではないでしょうか。
漫画には漫画のリカ像、ドラマにはドラマのリカ像があって、両者にあまりつながりを見いだせなかったんですよ。それを考えたら、舞台は舞台のリカでいいんじゃないか、“新しいリカを生み出そう”、そのことを第一に念頭においての役作りを心がけています」