「あの日、私はどうすればよかったのか」 性犯罪の被害経験がデバイス開発のきっかけに

 また石川さん自身も複数の性犯罪被害を経験してきた「性暴力スライバー」。性暴力スライバーという言葉は、日本ではあまりなじみがないが、性暴力被害から生き延び、今は自分らしく生きることができるようになった人という意味を持つ。石川さんは中学生のころに同級生の“悪ふざけ”で被害未遂を経験してから、10代、20代と複数の性犯罪被害に遭ってきた。

「高校時代は、下校時に見知らぬ人からの痴漢や誘拐未遂に遭いました。大学で検察官を目指して夜遅くまで予備校に通っていたときは、下着入手を目的とした不審者のつきまといにも遭遇して。どれもとても怖かったことを覚えています。でも、非常にショックだったのは、大学生のときに経験した知人によるデートレイプでした

 デートレイプとは、友人や知人、恋人などの間で、一方が相手の意思を無視して性行為を強要することだ。石川さんは社会人の知人男性とともに食事をしたあと、レイプ被害に遭った。被害に遭うまでの流れは、信用している相手同士であれば、ごく普通のコミュニケーションととらえてもおかしくないものだった

「一緒に食事をした後で、まだそこまで遅くない時間だったので、2軒目のお店に行くことになったんです。そこで、今振り返れば不自然だとわかるのですが、知人が“トイレットペーパー切らしていたから、買って家に置いていきたい”と言いだして。当時の私は純粋に相手の言うことを信じて、家に寄ってしまいました。玄関で待っていたら水を飲むようすすめられたので、飲ませてもらおうと思って家に上がった途端に襲われて。私の上に知人が馬乗りになり、抵抗もできませんでした。そこからは記憶がなく、どう帰ったのかも覚えていません」

 人は見かけによらない石川さんはその言葉を強く実感した。自分を襲った知人は、きちんとした会社で役職にもついていた“普通のサラリーマン”だったからだ。信用していた相手が豹変(ひょうへん)し、暴力をふるう。石川さんの人生の中で、相当なショックを与えた出来事だったという。

性犯罪が起こる場面では、その人がどういう職業や社会的立場にあるかということは、あまり関係ないんだなと思いました。知人も用意周到だったんですよ。女性は身体の準備ができないと男性を受け入れられないものですが、それをわかったうえで、潤滑油まで用意してあった。信じられないですよね」

 それから、石川さんは自身の被害経験について、ふとしたときに何度も繰り返し考えてきたという。自分に問いかけるのは、いつも決まって「あのとき、自分はどうすればよかったのか」ということだった

「知人の家に入らなければよかったのだろうか。不審者に遭遇したら、コンビニに逃げ込めばよかったのだろうか。頭の中でいろいろなシミュレーションをしました。その中でふと、被害の現場には、自分の身ひとつしかないことに気がついたんです。簡単な動作で起動して自分の身を守れる、SOSを出せるアイテムがあれば、あのときの私を守れたかもしれないと思いました。

 性犯罪は突然起こります。だから、女性にも余裕なんてありません。スマホでSOSを出したり、防犯ブザーを強く引っ張ったりすることも難しい状況が多い。私の被害経験をもとに、突然の出来事に身動きがとれないときでも、身を守ることにつながる選択肢をつくりたい。そう思って開発したのがomamolinkなんです」